内藤由樹の海外武者修行ログ vol.6 病気になって回復して、砂漠の美しさに感動した話
2012年関西で行われた日本最大級の写真イベント「御苗場」でレビュアー賞を受賞した注目若手作家・内藤由樹。
現在世界各地を旅しながら写真を撮影している。
http://yuki-naito.tumblr.com
Hacachina(ワカチナ)という、オアシスに行きました。
砂漠の真ん中で湖を囲んで人が生活しているところです。
そこで体調がちょっとおかしくなりました。
まず、関節痛と風邪の症状がでたのでひたすら寝ましたが
どんどん身体の痛みが増し、いわゆるしんどい症状が全て出て、手が痙攣してきました。
日本の友達に連絡すると、いろいろ調べてくれて「マラリアじゃないか?」ということに。
症状はどんどん悪化するけど、村には病院もなかったので、
とりあえず持っていたマラリアの薬を飲むと良くなった気がします。
しんどかったのはたった数日間ですが、不安だった。
痙攣し出した時はもうだめなんじゃないかと思いました。
外国なんか来ずに日本に居れば良かった。と一瞬考えて、
でも、いっぱい綺麗なものを見た後だから、日本に居てもう少し後に死ぬよりよかった、と考え直しました。
命をまだ長持ちさせたかったけど、まあまあ使い切ったんじゃないかなという感じでした。
最後に景気良くパーッと使った感じです。
でもどうせなら、きちんと写真家になってから死にたかったなと思いました。
まだ何も残せないからちょっと悔しい。
今となってはおおげさに聞こえますが、本当にそんなことを考えました。
その時に書いた日記は恥ずかしすぎて宿で燃やしました。
しかも、本当に、死ぬかも。と思ったので
家族やお世話になった人にあてて遺書も書いていました。
わたしは最後まで幸せでした。とか。
追いつめられた時の行動は想像できないものです。
次の日の朝、病み上がりの体に鞭打って砂漠の丘を登りました。
砂を登るのは、すごく大変。
全然前に進みません。
歩幅の半分くらい、砂に押し戻されます。
風が吹くと全身、全穴が砂だらけになります。
口の中にも入ってきて、砂漠を食べてしまいます。
しんどい。
ここからでも十分綺麗な景色なんだからもういいかなーと何度も諦めそうになるけど
一番上から何を見るのか知りたくて登ります。
もっとたくさん広く見たい時は、自分で見晴らしのいいところまで行くしかない。
四つん這いになりながら力を振り絞って登り切ると、その先は新しい景色が広がっていました。
また、ただ砂漠が続いていました。
ずっと奥の方まで、見える範囲全部砂漠でした。
私は砂漠にずっと行きたいと思っていて、だから写真もあまり見ないようにしていたのですが、
きっとこれを見たかったんだとわかりました。
こういう時、シャッターを押すしかできない。
そこにいて、それが撮れるだけでとても幸せだと思いました。
昨日死ななくてよかった。
結局、朝と夕陽の時間と、夜も星を見に上がりました。
筋肉痛です。
砂漠は、ただの砂の集まりなのにいろんな表情があることを知りました。
風と太陽によってどんどん変わっていく。
全部一瞬のできごとだから、どの瞬間も綺麗。
砂丘のてっぺんで刹那主義全開でセンチメンタルジャーニーしていたら
ペルー人の悪ガキに後ろから突き落とされました。
追いかけて砂丘を降りて行く時、あんなに苦労して登ったのに一瞬で、
でも、砂の上をぽんぽんと、たぶん1回のジャンプで2秒くらい浮いていて、
本当に飛んでるみたいでした。
悪ガキには結局追いつけませんでした。
内藤由樹 / ないとうゆき
1987 年大阪府生まれ。2013年 キヤノン写真新世紀 佐内正史選・佳作/第2回御苗場夢の先プロジェクトグランプリ/キヤノンフォトグラファーズセッション ファイナリスト/2012 年 御苗場vol.11 関西 レビュアー賞/写真集に「being」(2013年・TIP BOOKS)がある。
次の話を読む
vol.7 夜行バスで隣の席のおばちゃんと一緒に少女マンガを読んだ話
vol.8 クスコで良い村を見つけた話
vol.9 ひとりの若者と出会って中米に行くことになった話