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スマホの中の私の日常vol.3 平井政俊「自由の生態系」

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変わりゆく日々の中で、今、みんなの目に映るものはなんだろう。簡単に知ることのできない他者の視点には、思考と経験の足跡が刻まれているはず。そしてそれは、最も身近なスマホに詰まっているのではないでしょうか?

第3回は、建築家であり一級建築士の平井政俊さん。スマホに保存された写真から、建築家が捉えている世界をのぞいてみます。スマホの中のあなたの日常、見せてください。


関係性を撮る

私が写真に撮るものの多くは関係性だと思う。写っているのはだいたい町か建物か人なのだけど、撮っているのはそれらがどう関わり合っているのかという関係自体のほうで、それは「まちの生態系」と呼べそうなものでもある。

例えば住宅地の中に突如現れる生産緑地。元々農地だった広大な土地が、農や緑にあまり関心のないハウスメーカーの住宅で置き換えられてきたという、変遷する住宅地の生態系が写っている。

あるいはオフィス街の裏路地。表通りに並ぶきらびやかなオフィスビルで働く人々がタバコを吸いに避難してくる場所がみんな同じ裏路地で、周囲のビルも裏側なので窓がなく、工事現場の仮囲いや室外機の前に生態系が垣間見える。

2つの町

そして、スマホの中で並んだこの2つの写真にも、生態系が写っている。いわゆるオフィス街や住宅地という特定の用途に集約された町ができるのは、日本の都市計画における「用途地域」という規定のため。そして、大多数の人が各々にとっての「働く町」と「住む町」の2つの町を行き来しているのだ。だから、これら2つの町は切っても切れないほど密接に関係していて、同時かつ別々に起こっている奇妙な表裏の町であり、一体の生態系であるともいえる。

20世紀の人類史上前例のないほど急速な近代化や、日本における戦後の高度成長期は、分節集約の流れを男女というレイヤーにおいても、例えばサラリーマンと主婦として、日中はそれぞれをオフィス街と住宅地に集約してきたし、「男は度胸、女は愛嬌」 に代表されるような性差の役割分担をも強めてきたのだと思われる。

しかしながら、おそらく多くの人がそうであるように、スマホには「働く町」の写真も、「住む町」の写真も混在しているだろう。たとえプライベート限定スマホにしていても、仕事の関心事を記録的に撮ってしまうことはよくあると思う。スマホで仕事の写真をみせてもらっているとき急に、脈絡もなく無防備にお子さんの写真などが表示されると、一瞬、あっとなるが、その人をより深く理解できたような気にもなれるものだ。

写真を生活のメモ代わりに使うようになって久しく、スマホは視覚的情報を鮮明に記録しておくためのもうひとつの記憶器官かのようになっている。でも、私達の脳みそがオフィス街や住宅地のように職住にはっきり分節されている訳がなく、仕事のことを考え生活し、生活のことを考えながら仕事をすることが人間の営みだし、スマホに混在する職住の写真を通して改めてそれを再認識できる。

職住混在の町

そして、これはおそらく他の人と違うと思うが、私のスマホの中には「仕事と生活が混在して写っている写真」が多くある。それはどういうことかというと、建築家として独立して以来、自分のアトリエ事務所と自宅を同じ町(というか建物)に持つということを意識的に実践していて、コロナ禍になる随分前から職住ハイブリッドの生活を送っている。理由はいくつかあるが、一番大きな理由としては、その仕事と生活の混在の中に自分なりの自由が生まれるような気がしているからだ。

仕事場に遊びに来る子供

独立当初は、ちょっと大きなファミリー用のマンションに住んで、そのうち2つの寝室をぶち抜いて仕事場にした。私のスタッフが来たり来客があったりするのに、動線がきっちり分けられないので、その代わり仕事と生活の間にテーブルルームという共有の空間を挟むことにした。テーブルルームとはテーブルがどーんと置いてあるだけの部屋。朝は家族で朝食を取り、日中は事務所で打合せに使い、夜はまた家族で団らんし、たまの夜には私が図面を広げて仕事をしていた。通勤時間がゼロな分、毎日の朝晩きれいに掃除できるし、子供が熱を出したら保育園に迎えに行けたり、スタッフへ健康に配慮した社食も提供できた。次第に子どもや家族とスタッフの間に気遣いや親密さが増し、仕事と生活にまたがるコミュニティができた。最初は実験的に行っていたことだったが、職住をハイブリッドさせる暮らしの有効性は確信に変わり、都内に職住混在木造ビルを設計し実現できた。

仕事場に戻ると、作業台がジャックされていることも

今はその建物内の1区画を自宅に、別の1区画を事務所に使っている。各区画が出入口から専用の階段を介して道路に出るようになっているので、自宅から事務所への経路としては、一旦道路に出てから、途中植栽に水をやり、掃き掃除をして、ご近所さんや別区画に入る店舗の従業員さんと挨拶して、事務所に至るようになっていて、私にとってはオフィス街でも住宅地でもどちらでもない職住混在の町に暮らしていることになる。

子供は学校から帰るとそのまま、私の事務所に寄ったりする。ランドセルを置いて出かけるときもあるし、事務所にある材料、道具や色鉛筆でずっと工作や絵を作っているときもある。私が留守でもスタッフと戯れているらしく、作った工作やできるようになったあやとりを披露したり、あるときは学校であったことを、まずスタッフに相談したりしていて驚いた。子供たちなりのサードプレイスなのだろう。

アトリエ事務所のスタッフになにやら相談している子供

私はというと、スケッチを描くのに気持ちのいい自宅の屋上へ出たり、仕事の合間にPTAの作業で鯉のぼりをあげに小学校の校庭へ向かったり。土日の空き時間に仕事をしてると、仕事場が外からよく見えるので、近所の子が発見して入ってきて、そのまま子供らを連れて近所のスーパーに出かけたり。

休み時間にPTA行事の鯉のぼりあげに参加する私

こうして私のなかでは、都市計画、建物、時間、そしてジェンダーロールの分節をも超え、職住を一体として捉え直した新しいハイブリッドがかたちになり始めている。ここに写っている光景は町や建物や人が主な被写体であるが、対象は仕事でもない生活でもない私自身の自由とその生態系なのである。

仕事中、子供の友達に捕まって一緒に遊ぶ私

 

平井政俊
建築家。公共空間から個人住宅、家具など大小多様なスケールで空間設計を行う。インスタレーション、展覧会の会場構成、地域デザイン研究・ワークショップも手掛ける。住宅建築賞2019 受賞。法政大学大学院兼任教員、武蔵野美術大学非常勤教員。主な作品に「T3 Photo Festival Tokyo 2017」「ヴィラ・ポタジェ」「猿楽十方楼」など。
http://mhaa.jp


STORY TELLER / 写真家達の物語 vol.37

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