プロが語る、選ばれる写真作品の裏側 ~プリントとブックの重要性~
自分の写真を作品としてまとめてみたい! と思い写真をファイリングしてみても、それだけでは作品にはなりません。作品と呼ばれる写真にはしっかりとした裏付けがあります。今回はこれまでに数々の作家作品をレビューされてきたTokyo Institute of Photographyディレクターの速水惟広さんと、プロフェッショナル・アートプリンターの小澤貴也さん(エプソン販売株式会社)に、写真を作品としてまとめる意味や基本的に押さえておきたいポイントなどをお話いただきました。
作品への“姿勢”はブックの見た目で判断される!?
――写真をまとめる形の典型的なスタイルの一つにブックがあると思いますが、お二人がこれまでにレビューされてきた作品の中で、良いブックと悪いブックの違いを感じられたのはどういった点でしょうか?
速水:
作品の中身の前に、まずブックのコンディションの話があると思うんです。一番大事なのが、「ブックは自分が今まで撮ってきた写真を人に見せる段階のもの」という意識があるかどうか。例えば、プリントの折れやインクのかすれが見られると「とりあえず間に合わせで作ったんだろうな」と思い、自身の撮ったものを大切に扱っていないと受け取ってしまいます。ブック本体も、高価なものでなくてもいいのですが100円ショップで売ってそうなクリアファイルを使用しているのは非常にもったいない。そういった部分に写真に対する“姿勢”が出ると思うんですね。
自分の作品を一番大事に出来るのは自分。写真を見せる前の段階として、これらのことは時間をかけてきっちりと準備しておいてほしいと思います。
小澤:
写真展イベント「御苗場」ではエプソン賞を設けています。セレクトする際には、良い写真であることと、「最後まで丁寧に作られているかどうか」を重要視して判断しています。撮影はすごく力を入れているのに、人に見せるアウトプットの段階になるにつれ手を抜いているのが分かると、「この人は最後まで手を抜かずにずっと作品発表をしてくれるのだろうか?」と思ってしまいます。速水さんのおっしゃる“姿勢”を示すには、展示でもブックでも最低限のクオリティは必要とされるのではないでしょうか。
自分と向き合うためのプリント、伝えるためのブック
――「初めて写真をまとめる」という人はどんなふうにブックにしていけばいいですか?
速水:
写真をまとめ始めた人に一番多い傾向は、写真のスタイルがバラバラだったりすること。そうすると、「色んな写真が撮れていますね」で終わってしまいがちです。つまり、その写真で伝えたいことがまだ明確ではないんですね。
小澤:
そういった方は、まずは様々なジャンルの写真を集めた「私のベストショット集」を作ってみるのも良いのではないでしょうか。ブックにまとめると「見せる」という意識が強くなると思います。また見た人からの反応もダイレクトにあるので、「もっと写真の腕を上げた方がいいね」とか「テーマでまとめてみたら?」といった意見が聞きやすくなると思います。ブックは、客観的な意見をもらって新しい発見や気付きを知るためのツール。最初は気楽に作ってみるのもいいと思います。
速水:
そこから次のステップとして、自分が撮っていきたい方向を定めていくことが大事だと思うんです。その写真を通じて何を伝えたいのか? そこを作家自身が言語化する作業が必要です。もちろん、作家本人が何を求めているかによって見方は変わりますが。
小澤:
確かに、写真をまとめ始めたばかりの人とか、作品として世に発表していきたい人とか、その人の目的次第でブックのまとめ方が変わりますよね。
速水:
そうですね。賞に選ばれることを狙っているのであれば、相手に何を伝えたいのかを常に意識しておくことが大切。選ばれる作品は、自分がどう感じるかだけでなく、何故それが他人である第三者にとっても見る価値があるのかを提示してくれる。小澤さんが普段からよく「最終的なアウトプットを考えて制作しましょう」とおっしゃっているのですが、それは「何故これを撮っているんだろう。撮らなければならないんだろう」ということを常に問うことを課す作業でもあると思うんです。そうでないと、最終的に伝えたいことがすごく曖昧な写真になる。それは、見せる相手の存在を無視した写真になってしまう。
小澤:
自問し続けるという意味では、ブックにまとめることは良い機会だと思いますし、プリントは自分の写真を客観的に見るための手段になります。写真の加不足や順番について見返して、繰り返し手直ししてまとめる。出来上がったブックを見せたり、自問自答しながらまた修正を重ねる。その工程全てが作家のバックボーンや作品のコンセプトの形成につながり、評価される作品になっていくと思います。
速水:
本当にそうだと思います。プリントして自分の写真と向き合う時間を作らないと作品を作るのは相当難しいと思います。小澤さんのおっしゃったサイクルを自分の中に作っていくことが、作品を作るためには必要だと思います。
小澤:
それと、プリントについては細部までこだわりたい人は、やはり自宅プリントが良いでしょう。作品への思い入れも強くなりますしね。
――街の写真屋さんやプロラボでのプリントは問題ないのでしょうか?
速水:
もちろん。お店プリントやプロラボに頼むのも全く問題ありません。ただ、そこで出したものにちゃんと責任を持ってほしい。「これはお店の人がプリントしたから自分の意図通りじゃないんです」というのはその手段を選んだ作家の責任。最終のアウトプットに責任を持つってそういうことだと思うんです。プリンターを持つっていうことはそのコントロールを作家が持つということですよね。だから「時間がない!」と言い訳をするのではなく、自宅で納得した一枚を作れる環境を整えてほしいと思います。
――伝えたいことを常に問い続けながら、プリントしてまとめたものを誰かに見てもらう。そこで得た意見を自身のブックに反映して、また見てもらう…。その地道な一歩一歩が、写真を作品へと変えていくための着実な歩みになるんですね。
お二人ともありがとうございました!
★TIPS! 初めてブックを作る人は、次の4つのステップを参考にしてみよう!
①写真をざっくりとセレクトする
撮影した写真の中から、自分のベストな写真をセレクトしていこう。人物・風景・花…などの被写体や、テーマごとで分けるなど基準を作っておくとセレクトしやすくなるはず。PC上でのセレクトなら、AdobeのLightroomやBridgeなどの管理ソフトはお気に入りの写真に印をつけられるので便利。
②L~2Lサイズにまずは出してみる
セレクトした写真はまずL~2Lサイズでプリントしてみよう。並び替えたり手に取って見比べられるので、PC上では分からなかった発見が必ずあります。ポイントは最初から本番プリントをしないこと。プリントした中から自分にとって大切な写真を10枚くらいを目安に更に厳選していこう。
③いよいよこだわりのプリント作業へ
ここまで来れば厳選された写真がセレクトされているはず。選び抜いたベストショットだからこそ、プリントもこだわってしっかりとした一枚に仕上げよう。自宅プリントは、自分でサイズの設定や色の調整が出来るのはもちろんのこと、プリント用紙も好きな種類を選べるのがうれしいところ。※用紙の選び方はエプソンのフォトポータルへ!
【おすすめプリンター】
エプソンプロセレクション SC-PX5VⅡ「色や明るさなど、細部の表現にまでプロ並みにこだわりたい!」方に。
顔料インク搭載で色の安定が早く、レタッチとテストプリントを繰り返す作業に向いています。深い「黒」が美しい新開発「Epson UltraChrome K3インク」搭載のA3ノビフラッグシップモデル。
Colorio V-edition EP-10VAコピーやハガキ作成などの日常使いから、写真作品プリントまで、幅広いシーンに対応。6色のインクで、広い色域の鮮やかなカラー表現、階調豊かなモノクロ表現が可能に。また、低インクコストだから、日々の作品づくりの写真も、コストを気にせずたくさん楽しめます。
④ブックにまとめて完成!
手をかけたプリントは、それにふさわしいケースにまとめよう。専門店ならポートフォリオや専用ボックスなど、より本格的なアイテムを見つけることが出来る。また、作品の説明書となるステートメントも一緒に入れておこう。ポエムのような抽象的な文章ではなく、相手に簡潔に伝わるよう文章としてまとめることがポイント。後でその作品について振り返ることが出来るのはもちろん、イベント会場にブックを置いている場合は、自分がいなくても見る人に作品の説明をすることができる。
左写真はmeet up!の様子。積極的に作品を見てもらってステップアップの機会にしよう。
速水惟広/はやみいひろ
Tokyo Institute of Photography(T.I.P)ディレクター。T.I.Pが主催する「Tokyo International Photo Competition」を、ニューヨーク・ブルックリンの写真団体「United Photo Industries」と共同でオルガナイズ。企画展示、写真集の編集にも携わる。
小澤貴也/こざわたかや
エプソン販売株式会社 プロフェッショナルアートプリンター
★もっと詳しく知りたいなら!
エプソンのフォトポータルでは作品制作に役立つ情報を公開中!
www.epson.jp/katsuyou/photo
★こちらもお勧め!展示とポートフォリオそれぞれ異なる視点でまとめ上げた作家にインタビュー
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