「自分の写真に責任を持つ」ためのカラーマネジメントモニター。写真家 福井麻衣子さんによる、BenQ SW270Cレビュー
写真を扱う人なら、一度は聞いたことがあるであろう「カラーマネージメントモニター」。
写真を仕上げるうえで非常に重要なツールなのですが、その重要性をきちんと理解できている人は実は多くありません。
今回は、写真家の福井麻衣子さんに、そんなカラーマネージメントモニターを使う重要性や具体的なメリットを、2019年8月に発売となった、AdobeRGBモニターでもある、写真・映像編集用モニターSW270Cを使って語ってもらいました!
text:渡邊浩行
「写真制作の軸」となるカラーマネージメントモニターの重要性
――普段は主にどのようなジャンルのお仕事を?
福井 旅と人、ライフスタイルを主なテーマに、雑誌や広告を中心に仕事をしています。雑誌でのタレントポートレートやグラビア、舞台のパンフレット、企業カタログやPR案件などの撮影もしています。
自分が旅好きなので、いろんな場所に連れて行ってもらえる旅行関連メディアのお仕事は楽しいですね。
――これまでのお仕事を拝見して、福井さんが撮られた写真の透明感、作り上げられたイメージから出るニュアンスの繊細さに驚いたんです。これだけ細かな所まで気を配って作業するうえで、モニター選びは重要だと思うのですが、カラーマネージメントモニターは使っていますか?
福井 もちろん使っています。
――実際に使い始めたのはいつ頃でしょう?
福井 10年以上前からでしょうか。所属していた事務所がいち早く導入していたんです。
当時はまだ、仕事の中心はフィルムを使った撮影で、私の師匠は多彩な暗室技術を持っている方だったのですが、根本的に写真が大好きで探究心が旺盛。そのせいか、フィルムで仕事をしながらも、デジタルへのフォローアップも早かったんです。
今考えると、そういう事務所でカメラマンの仕事を始められたのはラッキーでした。
――カラーマネージメントモニターの必要性を感じたきっかけを教えてください。
福井 客先の企業に出向いた際に、事務所にはいろいろなパソコンがあって、どれも発色が違うことに気づいたんです。納品用のデータを作るうえで、これでは何を基準にすればいいのかわからない。
そこで、自分の写真の色や調子の基準となるカラーマネージメントモニターが必要だと思いました。経験がモノを言う部分もありますが、基準となるモニターが1台あれば、そこから当たりをつけられるので、お客さまから問い合わせを受けた時にも自信を持って「大丈夫です」って言えるんですよ。
――使うモニターが写真の基準になるということは、モニターがご自身の写真制作の軸になっているということででしょうか?
福井 そうです。頼りにしています。特にデジタルの場合は、自分なりの基準を持たないと怖い。どの仕事でも色校を見せてもらえるのならいいですけれど、予算や納期の問題でそうもいきませんし、Webのようなデジタル媒体ではそもそも色校がありませんからね。
白の表現など微妙なトーンの再現性にも驚いた
――実際にBenQのSW270Cを使って、どんな印象を受けましたか?
福井 ひとことで言って、すごく綺麗に写りますね。色ムラがなく、写真の微細な部分まできっちりと見えます。
――BenQ独自のムラ補正技術であるユニフォミティが生きているんでしょうね。
福井 白い被写体を撮ったときの、微妙なトーンもしっかりと表現されていることにも驚きました。こういう被写体の場合は、ノングレアじゃない一般のノートPCに搭載されているようなモニターだと、ピカピカしてよくわからないんですよ。
――本製品の色再現の正確さが活きているのでしょうね。とりわけデジタルの場合、シャドー部に比べてハイライト部のデータが残らないため、レタッチの際に慎重さ、繊細な処理が要求されると思うんです。
福井 そうなんですよ。あえてハイライトを飛ばすこともありますが、原則的には色情報が残るようにデータを作るんです。それでもお客さまから「ハイライト部分の色が出ない」という連絡を受けることがあります。
確認すると、コントラストが高めなビジネス向けノートPCで確認作業していたことが原因だったり。レタッチで微細な所まで追い込んだ写真を表示しても、ディテールまでは見えないんですね。
そこをカバーする意味でも、フォトグラファーの側が優秀なカラーマネージメントモニターを使うことは重要だと思います。
ノートPCでは潰れてしまう色も、細部までしっかりと表示
福井 それと、私はポートレートの仕事をはじめ、人をよく撮影するのですが、SW270Cは肌の色味の再現性が高いですね。
――他のモニターと比べてRed寄りの色域が広めに設計されているためでしょうか。アナログでプリントするさいにも、赤の設定を微調整することで、肌の印象は微妙に変化しますから。
福井 そうですね。特に、赤は飽和しやすい色であるぶん慎重な作業が求められるのですが、ノートPCのモニターでは潰れたように見えてしまうことがあるんです。
一度、スタジオでの撮影にノートPCを持って行った際に、お客さまから「衣装の色はちゃんと出てますか?」と尋ねられたことがありました。ノートPCの液晶モニターでは潰れてしまう色でも、SW270Cであればしっかりと表示されるので、仕事の安心感に繋がりそうです。
――スタジオで仕事をする際に、自前でモニターを用意することもあるんですか?
福井 基本的には持って行きます。たとえばこの舞台の撮影の仕事は、毎年子役のキャストが変わります。そのつど衣装やウィッグの細かな所まできちんと写っているかを関係者全員で確認するので、大きくて微細な部分まで表示できるモニターがないと心配なんです。
――モニター上の写真がよく写っていれば、関係者の皆さんにも納得してもらいやすいですよね。
福井 それもありますが、こちらが本気で仕事に取り組んでいることも伝わりやすいと思います。諸事情で持ち込めない時でもタブレットかノートパソコンは必ず持っていくようにしていますが、そんな時にはもっとちゃんとした大きなモニターで見られたら、と思います。
徹底した「ユーザー目線」の、便利で多彩な機能
――普段の作業で使用しているモニターのサイズは?
福井 24インチです。でも、今回、27インチを使ってみて、やはり、モニターは大きいほうが使いやすいと痛感しました。細かい箇所のチェックがしやすくて、調整もしやすいですから。一度大きいものを使ってしまうと、正直な話、24インチはキツく感じます。
――SW270Cは横位置だけでなく、縦位置での使用にも対応しているのですが、使ってみていかがでしたか?
福井 普段使っているモニターは横位置固定のタイプなのですが、縦位置なら写真をより大きく表示できるぶん、細かな部分を調整しやすいです。作業効率も上がると思います。
――ハードウェアキャリブレーションはどうでしょう?
福井 ハードウェアキャリブレーションというと、時間がかかるイメージがあったのですが、開始してからいつの間にか終わっていて、ノーストレスでした。これなら色調整をすることの負担は感じません。キャリブレーションソフトが無料で使えるのもありがたいです。
――SW270Cには3段階のモノクロモードが用意されているのですが、モノクロ写真の仕事をすることはありますか?
福井 基本はカラーですけれど、先日雑誌の仕事でモノクロでの注文があったんです。普段モノクロ写真は撮らないので、いつもは色ベースで写真の構図を作るんですが、そんなこともあって、いくつかの調子の違うモノクロのイメージを作って、それぞれをプリントして確認したんです。これが結構大変で。
そのときにこの3段階のモノクロモードをモニター上でシミュレーションできるこのモニターがあったら、作業の手間も時間も少なくできたのに、と思いました。レタッチするカットを選ぶ際に写真を確認するのにも重宝しますね。
――異なる色空間の画像を左右に並べて同時に表示できるGamutDuo(ガンマデュオ)の機能もあります。
福井 同じモニター上で異なる色空間の画像を画面上に並置して比較できるのは嬉しいです。付属のホットキーパックG2に、sRGB、AdobeRGB、モノクロモードを割り当ておけば、ボタンひとつで切り替えられるのも便利ですね。
――そのほか、気づいたことがあれば、教えてください。
福井 遮光フードが付属しているのがありがたいです。色味を正しくチェックするためには欠かせないのに、普通は別売りで結構な値段がしますからね。
出荷前にキャリブレーションをかけて調整した際のレポートが付いてくることにはメーカーの誠実さを感じました。これまで使ってきた他社のモニターにはここまでのサービスはありませんでしたから。
それと、USB Type-Cに対応しているのも便利ですね。昨年、MacBook Proを買い換えたのですが、USB Type-Cのみ対応のタイプなので、一般に普及している未対応のモニターにつなぐ際に特定の限られたケーブルしか使えなくなってしまい不便を感じていました。
SW270Cならケーブル1本で済みますし、MacBookにつなげておけばACアダプターも不要。インターフェースをすっきりさせることができるぶん、その場にいるお客さまの印象もいい。トラブルの防止にもつながると思います。そのまま充電してくれるので、Macユーザーにとっては本当に使い勝手がいいです。
――USB Type-Cへの対応は、ユーザーからのリクエストが反映されたのだと聞いています。
福井 そうなんですね。修理に出した際に代替機を貸し出ししてくれるサービスも、プロのフォトグラファーにとってはありがたいです。
モニターは、飛躍のチャンスを失わないためのカギとなる
――福井さんは撮影のお仕事をしながら、作家として写真作品も発表されていますね。作品制作においても、カラーマネージメントモニターは重要なファクターではありませんか? 特にデジタルの場合は、撮った段階でそのまま「いい写真」になるというものではないと思いますから。
福井 私もそう思います。撮影した画像データをレタッチで追い込んだ後に、実際に出力した最終形態が写真作品ですから。
展示会場に来てくださった方に、自分のイメージ通りに作った写真をベストの状態で見ていただくための環境を整えることは大切です。
――アマチュアの方やデビューしたてのフォトグラファーの写真展に行った際に、テーマも被写体も優れているのに、出力面をおろそかにしたことで損をしているなと感じることがあるんです。
福井 確かにありますね。写真作家としては私はまだまだですが、商業カメラマンとしてはそれなりに長い期間仕事をしてきたこともあって、若いフォトグラファーに「写真を見て欲しい」と言われることがあるんです。
そういう時に、手を抜いたような写真で作ったポートフォリオを見せられると、「この人は写真を大事にしていないんだな」と感じてしまいます。
――それは、さらに上のステージに上がるチャンスをフォトグラファー自身が台無しにしていることにもなりますね。
福井 本当にもったいない。それは、必ずしもお金をかければいいということでもなくて、まずはしっかりと丁寧に作るということ。それが、自分の写真に責任を持つことですから。そういう写真を見せてくれる人は印象がいいですよね。
――写真作品のプリントはご自身で?
福井 自宅のプリンターで出力することもありますが、基本的にはプロラボにお願いしています。きちんとキャリブレーションをかけたカラーマネージメントモニターで作ったデータをプロラボで出力すれば、一定水準以上のプリントができますし、自分でプリントする場合と比べてコストパフォーマンスも意外と高いんですよ。
――プリントの調子を微調整したい時はどのように?
福井 自分のイメージと上がってきたプリントの印象が違った時は、その場で「マゼンダを少し抜いてください」というように説明して調整してもらいます。でも、それは自分のなかに一定の基準があるから言えることなんですね。自身の写真の軸がはっきりしているからこそ、的確な判断に基づいた指示が出せるんです。
――カメラも大切な道具ですが、お金や神経を使うべき所はむしろ、最終的なイメージを作るためのモニター選びなのかもしれないですね。
福井 そうなんですよ。だから、フォトグラファーがモニター選びに気を遣うことは「Should」じゃなくて「Must」だと思うんです。いろいろなカメラを使って写真を撮ることは楽しいですよね。
でも、自分の写真のよさを見る人に感じてもらい、自分自身で把握するためにも、その時々にできる最良の環境を用意したほうがいいと思うんです。
――それは、プロのフォトグラファーに限ったことではありませんよね。
福井 写真を趣味にされているアマチュアの方でも、自分の写真の軸となるようなモニターを使うことは、よりよい写真生活にそのままつながると思います。モニターを変えることで、自分の写真でそれまでは見えていなかった部分が見えるようになる。その後の写真も変わってくると思いますから。
BenQ SW270C
☑27インチ WQHD (2560 x 1440) の解像度
☑Adobe RGB99% / sRGB・Rec.709100%、DCI-P3/Display P3色域97%までカバー
☑正確な色再現を可能にするAQCOLOR技術採用
☑動画編集に最適な1080/24P出力をサポート
☑故障時に5,000円で貸し出してもらえるセンドバックサポート!
標準で3年間の保証に加え、修理期間中に作業が滞らないように、同等性能の代替機を5000円(1回+消費税)で貸し出してくれる、有償サービスも。仕事中や作品制作中に突然の修理となっても安心。
SW270C製品ページはこちら
福井麻衣子
大阪府出身。現在東京を拠点とする。写真家・内池秀人氏に師事し、現在はフリーランスフォトグラファー。雑誌・広告を中心に、カメラ誌・書籍への執筆、展示など様々な分野で活動中。主に人物撮影・ライフスタイル・旅や街歩きの撮影を得意とする。「日々の小さな感動を糧に」きらりと光る瞬間や、その時の空気やにおいまで写したい、という想いを大切に写真を撮っている。
HP:www.fukuimaiko.com
instagram:@caby_mariko
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