「Outland」 はいかに生まれたか? ロジャー・バレン インタビュー
Interview & translation : Ihiro Hayami
ロジャー・バレン。その名前は知らずとも、彼の作品を一度見たら忘れることはできない。現代における最も重要な写真家のひとりとして知られ、30年以上にわたり、南アフリカをベースに作品制作を行っている作家だ。
美しいモノクロプリントと、シンプルなスクエアフォーマットを使いながら彼のスタイルは進化してきた。初期の作品では、伝統的なドキュメンタリー写真のスタイルで撮影をしていたバレンだが、「Outland」のシリーズをきっかけに、その作風は心をかき乱すような心理劇へと変化していく。そんな同シリーズのセカンドエディションが、2015年4月にPHAIDONより出版されることになった。日本でもKYOTOGRAPHIEでの展示が行われるなど注目を集めるバレンに、インタビューを行った。
―――ロジャーは、南アフリカにおける「アウトサイダー」と呼ばれる人々を撮影し続けていますが、どうして彼らを撮ろうと思ったのでしょうか?
私は、いわゆる「社会的弱者」と呼ばれる人たちを50年近く撮り続けているんだけど、それが「なぜか?」と聞かれると、その正確な答えをあげるのは難しい。なぜなら、彼らへの興味というのが、私自身のコアな部分に深く関わる事だからね。
―――なるほど。では、別の質問です。ロジャーがつくりだすイメージは、過去から現在の作品に向かうほど、より抽象的で、ドキュメンタリー的要素が少なくなってきていますよね。この変化はどうやって起こっていったんでしょうか?
その抽象的な作品への移行がこの「Outland」から始まっています。この時期、私の被写体となった多くの人たちが、自宅の家の壁に絵を描いていた。だからそれらを写真に撮りはじめたことで、徐々に、写真の中にドローイングが入り込むようになっていった。2003年には人物のポートレイトはほぼ画面から消えていったよ。(精巧なセットをつくりはじめて)ドローイングやペイント、コラージュ、彫刻を用いるようになった。(新しいシリーズには、人はほとんど登場せず、代わりに小道具として、人形の手足や頭だけのパーツが、壁やぼろきれの間から不気味に突き出したりしている。)この頃になるとポートレイトはほとんど僕の写真には登場してこなくなる。
―――そんな抽象的なイメージに向かう変化が始まった作品が「Outland」なわけですよね。それは、半分はフィクションだけど、やはり半分は現実にそこに住む人たちを扱ったドキュメンタリー。だからそのコミュニティとの関係性なくして作ることはできない。実際にモデルとなった人たちとは、どうやって関わっているのでしょうか?
そのコミュニティこそ、私が「Outland」と呼ぶ場所に住む人たちですが、彼らとは長い年月をかけて出合ってきました。僕自身の親しい友人たちもそこに住んでいるし、過去20年にわたって定期的にその場所に住む人たちとコンタクトを撮り続けている。重要なことは、写真とは視覚芸術だということに気づき、そして究極的には、写真家と被写体との関係性そのものが、視覚的に変換されないといけないという事です。
―――今回、「Outland」という写真集の2nd Editionが14年ぶりに出版されて、そこには45枚もの未発表作品が含まれているわけですが、過去の作品に戻り、それを再編集するという体験はどういうものでしたでしょうか?そこに、14年前には見えなかった何かを、見ることはできましたか?
私が1995年から2000年にかけて「Outland」を制作していたとき、写真は自分にとって趣味であり情熱を燃やす対象だったんだ。だから、コンタクトシートを見返して見たら、明らかに重要な写真を見逃していたよね。 そして、このプロジェクトにおける自分の作品の意味を考えているうちに、それは「人間の不条理」にあるという事が自分の中で明確になっていきました。
今もなお「Outland」の写真が当時撮影したときと変わらず強いインパクトを持っているのは、作品が見た人の深い意識の範囲内にとどまるから。そしてそれがなぜかと、見る側に考えさせるからだね。
Outland by Roger Ballen, 2nd edition, £39.95 / €49.95, Phaidon 2015, www.phaidon.com