いいポートレイトってなんだ?
テラウチマサトの写真の教科書18


今年から始まった、ポートレイトに特化した新しい写真展『みんなのポートレイト展』
審査に通過した一般応募の方のポートレイト作品と、招待作家の作品が一挙に並びます。
会期中は豪華ゲストによるトークイベントも。
盛り上がりを見せる同展示について、主催者であるテラウチマサトがその想いを語ります。

いいポートレイトってなんだ?

新しい写真のコミュニティをつくりたいと思って始めた御苗場。最初は小さな活動だったけれど、その規模は徐々に大きくなってきた。

今年開催した横浜御苗場2018では、来場者11,990人を動員。そして、会場には多くのポートレイト作品が並んだ。
その中で、来場した方から度々こう声を掛けられた。
「今年の御苗場、ポートレイトが増えましたね」

僕は、その言葉の中にどこかマイナスな意味合いがあるような気がした。
さらに続けて男性目線のポートレイトばかりに見えるという声もあった。
確かに男性が女性を撮った写真が多かったかもしれないけれど、きっとそれだけではないはずだ。

僕の仕事の6割はポートレイトだ。プロになるきっかけも経営者や政治家の撮影の仕事からだった。
元々出版社にいた関係もあって政界人の方を撮る機会も多く、松下幸之助さんや本田宗一郎さんなど歴史に名を残す方を撮影する機会にも恵まれた。

ありがたいことに、僕が撮った方からは「また次もお願いしたい」と言われることが多かった。すごいとみんなに褒められたけれど、僕は自分のポートレイトのどこがいいのか全くわからなかったから実は指名されることがとても怖かった。
期待されていることが本当にできるのか、どこに期待されているのか、何もわからなかったのだ。

そんな撮影をこなす中で、ポートレイトを研究するようになり、独立してからは芸能人を撮ることも増えた。ポートレイトというジャンルにはずっと関わってきて、とても思い入れがあるし、自分なりにこだわってきたつもりだ。

でも、御苗場でポートレイトに対する言葉を聞いた時に、僕はもう1度ポートレイトの在り方を考えなければいけないと思った。ポートレイトが何なのかわからずに、研究した日々を思い出した。

本当にみんながいいと言うポートレイトって、どんなものなんだろう。
風景写真と共に、ポートレイトというジャンルは進化が著しい。

そんな変化する今だからこそ、ポートレイトとまっすぐ見つめ合う機会を設けよう。
御苗場という場所とは別に、ポートレイトだけの御苗場のような舞台を用意することで、ポートレイトに関わる人たちと一緒に考えていきたい、そう思った。

可愛い女の子を撮っただけだと言われているものであっても、ヌードであっても、幅広い写真が増えれば増えるほど、ポートレイトの世界はきっと広がっていくはずだ。
誰かを、どれかを区別したり、遠ざけたりしない。みんなでポートレイトを考えよう。
そんな想いで、「みんなのポートレイト展」を開催した。

“みんな”の意味

御苗場は誰でも参加することができるが、今回の「みんなのポートレイト展」では初めて審査を設けた。
御苗場では誰でも意欲とアクションが伴えば審査はいらないという考えだったが、ポートレイトのジャンルの広さや文化を示そうとする時には、審査をするという選択も必要ではないかと思ったのだ。

審査は、写真に詳しい信頼できる若手に任せることにした。
選ばれたのは、アーティスティックなものから、女の子の可愛さをぎゅっと詰め込んだもの、家族を撮ったものまであり、「みんなの」という言葉に込められた意味にぴったり合う、多種多様な写真たちだった。

会場に足を運んでくれる人には、その多様な写真を見て、ポートレイトはこんなに色んなものがあるんだということを知ってもらえればいいなと思う。
願わくば、(そんな気持ちを持っていない人がほとんどだと思うけれど)ポートレイトは女の子を撮るのが好きな人だけがやるものだというイメージを払拭できればいい。
ポートレイトは顔や身体といった上辺だけをなぞるものではなく、その人から滲み出てくる命や性(さが)を写しとるものだと思っているから。

今回の展示では幅広く、色々な写真を集めた。見に来てくれる方々には、「ポートレイトってこんなものなんだ」「人って不思議だな、面白いな」という新しい感覚をぜひ味わってもらいたいと思う。

“時間”を買う、モーション部門

以前からやりたいと思っていて、今回の「みんなのポートレイト展」で初めて、モーション部門という取り組みをすることにした。
液晶モニターを使った展示で、1分間ごとの時間を買ってもらって自由に表現してもらう。

写真はやっぱり紙で見てみたいと思うし、紙の魅力はいっぱいある。でも、その条件によっては距離の壁を感じてしまうことがあるのだ。

たとえば海外から応募したい人がいる場合。1度データを送ってもらって、こちら側でプリントをすることにしたら、その人が持っている写真のイメージを完全には表現できないかもしれない。プリントは写真の要。こういう仕上げにしたいというこだわりが、きっとそこにはあるはずだ。

距離によって、作家の表現が歪んでしまうのは避けたい。「みんなの」と言った時、当然日本人だけでつくられた場所ではいけないだろう。
今年は初回ということもあり国内の作家だけだったけれど、やがては海外からも参加してほしいという想いで、距離の壁を消せるような仕組みをつくっておきたいと思った。

動きが加わったポートレイトは、1枚の静止画とは違った面白さを僕たちに見せてくれる。ポートレイトの新しい形をモーション部門でも見せられることを、僕自身とても楽しみにしている。

ポートレイトの万国博覧会を目指して

今回は、招待作家として何名かの写真家さんも参加していただくことになった。
黒田明臣さん、森藤ヒサシさん、山岸伸さん、ヨシダナギさん。

長年活躍されている方もいれば、SNSなどで多くのファンを獲得し精力的に活動している方もいる。出展作品だけではなく人選においても、多様性は重視した。

みんなのポートレイト展」は、ポートレイトの万国博覧会のようなものになったら面白いんじゃないかと思っている。万国博覧会は、世界には色んな国があるんだと世界の文化を知る場所。
それと同じように、「ポートレイトってこんなに多種多様なのか」、「自分は今までこう撮ってきたけれど、こういうのも素敵」という気づきを与えられる場所になったらいいなと思う。

「いいポートレイト」がどんなものなのかは、まだわからない。正解はないだろうし、人それぞれ答えは違うだろう。
ただ、僕が長年思っているのは、「その人に会ってみたくなるポートレイトが撮りたい」ということだ。
写真を見た人が、被写体に会ってみたくなる。単純に綺麗だねというのではなく、どんな人なんだろう、話してみたいなと思わせるような、人間味が出てくるような写真を目指している。

この「みんなのポートレイト展」では、プロアマを問わず、本当にさまざまな写真が集まった。
出展者ひとりひとりが思うポートレイトが詰まった空間は、御苗場とはまた違った熱気を感じさせる。きっと、ここには見に来た人の感性を刺激するような何かが詰まっているはずだと僕は信じている。

この中で、あなたにとっての「いいポートレイト」の答えが見つかったなら、とても嬉しい。

みんなのポートレイト展
開催中~15日(日)
会場:72gallery (TOKYO INSTITUTE OF PHOTOGRAPHY)
入場無料
www.ppschool.jp/workshop1706/minpo2018

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