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全ページ「観音開き」! 世界中を驚嘆させた川田喜久治『地図』|飯沢耕太郎が選ぶ「時代に残る写真集」Vol.12

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川田喜久治『地図』美術出版社、1965年

川田喜久治は1933年、茨城県土浦市に生まれる。立教大学在学中から『カメラ』の月例写真に投稿して頭角を現し、同大学卒業後、1955〜59年に新潮社に勤務する。1959年、奈良原一高、東松照明、細江英公らと写真家グループVIVOを結成、61年に解散後、『地図』、『聖なる世界』(1971年)、『ルードヴィヒⅡ世の城』(1979年)など、意欲作を次々に発表して日本を代表する写真家のひとりとして認められた。

川田 喜久治写真展「百幻影-100 Illusions」
日程:開催中~2018年10月11日(木)
時間:10:00~17:30
休廊:日曜日・祝日
場所:キヤノンギャラリー S
住所:東京都港区港南2-16-6 キヤノン S タワー1階

『地図』について語る時に、まず取り上げなければならないのは、その特異なブックデザインであろう。黒い厚紙の外箱を開くと、セピア色がかった表紙の本体が姿をあらわす。

そこにおさめられた96枚の写真は、すべて「観音開き」のページ構成になっている。つまりページをめくるごとに、

目の前にあらわれてくる写真が中央で2つに割れ、左右に大きく開いて、別な写真が出現するように仕組まれているのだ。



この破天荒ともいえる装丁・レイアウトを担当したのは、グラフィックデザイナーの杉浦康平である。川田と杉浦は、約1年かけて写真の配置を決め、500部限定、全ページ「観音開き」の写真集を完成させた。結果的にこの写真集は、日本の写真集の最初の黄金時代というべき1960〜70年代を代表する1冊となり、いまなお世界中の読者を驚嘆させ続けている。

『地図』の内容にも注目すべきだろう。中心になっているのは、広島の原爆ドームの壁や天井の「しみ」、「東京湾 要塞跡」、「靖国神社 爆弾三勇士」、「特攻隊員 写真・遺書」と言った、「戦争」の写真群である。




それに「ラッキーストライク」、「コカコーラ」、「犯人手配書・にせ千円札半人モンタージュ写真」と言った、戦後の日本の社会状況を表象するイメージが重ね合わされる。



『地図』に挟み込まれた「MAP」と題する文章で大江健三郎が指摘するように、それは川田自身の記憶を辿り、再構築することで、「この暴力的な世界を真にさし示す地図」を編み上げようとする、壮大かつ野心的な試みであった。

川田は『地図』以降も、スケールの大きな作品を次々に発表していった。彼の作品世界は時に難解と評されることもあるが、そこには常に「写真と写真、写真と宇宙をつなぐニューワード」(『ラスト・コスモロジー』1995年)を見出そうとする、明確な意志を感じとることができる。2000年代以降には、撮影からプリントまでを完全にデジタル化し、80歳を越えた現在でも、毎年のように新作展を開催し続けている。


飯沢耕太郎が選ぶ「時代に残る写真集」Vol.12
川田喜久治『地図』

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