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HOW TO / 作品制作のヒント

佐藤時啓・インベカヲリ★・テラウチマサトがフォトコンテストでその写真を選んだ理由は?講評をチェック!


伝えたいことと表現が一致しているか

「Shaking Heart」Takanori Nakamura(福島県)

takanoriさん作品
――次は自由応募で、Takanori Nakamuraさんの作品「Shaking heart」。

インベ 恋愛で悩むモデルと風で揺れる髪を重ねてみたとのこと。私はこのモデルさんを見た時にいい恋愛をしているように見えたので、少し意図と違うかなと感じてしまいました。髪がなびく様子は面白いですが、作者の伝えたいことと、実際に伝わったことの間に差異がありました。

佐藤 僕も撮影意図にちょっと違和感がありましたね。すごくよく撮れているんですが、表現と伝えたいことがうまく一致していない感じがしました。

テラウチ モデルの女性の表情からそういう風に感じたんでしょうかね。写真自体はとてもいいと思ったのですが、僕は女性の角度が気になってしまいました。

背景をまっすぐにするために女性が右に反れる形になっていますが、むしろ女性はまっすぐに立たせて背景を傾けた方がよかったような気がします。風景は確かに歪みますが、その方が、作者が意図した揺れる心や不安定な雰囲気を表現することができたと思いますね。モデルさんも背景のボケ具合なども非常によかったので、少しもったいなかったです。

異なる光で捉えることで新しい面白さを発見できるはず

「オレンジ」奥田晃介(京都府)

奥田さん作品
――続いて、自由応募で奥田晃介さんの作品「オレンジ」。

佐藤 独特な屋根の形と色、そこで屋根葺きをしている職人さんたち。すごくいい場面だと思うのですが、眩しすぎて職人さんたちの姿がはっきり見えないのが残念です。屋根のオレンジ色が少し強烈すぎましたね。

テラウチ 印象的な1枚ですが、佐藤さんが言われた通り、屋根葺きをする職人たちの存在が薄れてしまっている点が惜しいなと思いました。もうちょっと待ってみて影が伸びれば、職人さんたちにも気づくことができる。

高い位置から撮影しているので、なかなか上がれない場所なのかもしれないですが、目星をつけておいて時間帯を変えたりして、様々なパターンで撮影を試みてほしかったです。朝、夕方、次の日など、同じ場面を異なる光で捉えてみることで、新しい面白さを発見できると思いますよ。

インベ すごい光景ですよね。恐らく、このオレンジ色の屋根はずっと続いていると思うので、縦ではなく横位置でもっと広く見たかったなと思いました

写真がもつ面白さに気づかせてくれた

「小さな存在」今村修(埼玉県)

今村さん作品
――次は、自由応募で今村修さんの作品「小さな存在」。

テラウチ この作品は、単写真よりもシリーズで見てみたいなと感じました。いい写真だと思うのですが、これを1枚で見せるのであれば、もう少しよい光の中で撮らなければ、印象は弱まるかなと。

色んな建築や都市景観の中に、ぽつんと1人が立っている様子をシリーズで撮られていけば、カレンダーなどにできるくらい素敵な作品になると思います。

インベ 個人的にとても気に入っていて、票を入れようか迷いました。中央の塔が堂々と立っていて、その真ん中に人間がぽつんといる。しかも指示をして立たせたわけではなくて、恐らくたまたま通りかかった人ですよね。

人間の小ささが想像以上で面白かったです。人間が建物に対してこんなに小さい存在であるというのは、目でみたらそこまで思わない。やっぱりこうして写真にすることによってより感じると思うんですよね。写真がもつ面白さに改めて気づかせてくれました。

佐藤 都市写真の魅力がものすごく出ていますよね。真ん中の柱が、へこんでいるのか出っ張っているのかもわからず、不思議な光景だなと思いました。

光がちょうど影の中で人に当たっていて、タイミングもいいですね。いい場面をおさえながら、水平垂直もきちんととられていて、建築物を撮影する確かな技術を感じました。

この景色に心惹かれた理由を考える

「晴れた日」神成邦夫(北海道)


――最後は、自由応募で神成邦夫さんの作品「晴れた日」。

インベ 「一見何事もない、積み木のような家並み」と撮影意図にありましたが、作者が書かれている通り積み木の感じが伝わってきました。説明と写真がうまく作用しあっています。野原と青空、その隙間を縫うような家とのバランスも、絵的に美しく、面白かったです。

佐藤 まさに日本の新興住宅地を代表するような光景ですね。画面を大きく分割した構図が印象的でした。住宅の前に生い茂るまだ何もない野原に、少し黄色っぽい花が咲いているのが可愛らしいです。いい日だなと、素直に思いました。

テラウチ こういう場面を撮りたくなってしまう気持ちはわかります。写真を長くやっていると、なんとかして、こういった当たり前の風景の中で表現したくなるのですが、この作品は表現という意味では、少し物足りないような気がしました。

どうしてだろうと考えた時に、作者がこれを見てどんな風に感じたのかがあまり伝わってこなかったんですね。佐藤さんが言われたように「いい日だな」と思われたのか、新しい建物ばかりの土地に虚しさを感じたのか、作者の気持ちを読み解くヒントがなかったです。

手前に大きく野原を入れたのはどんな意味があったのでしょう。撮影者の、私はこの世界をこういう風に見ていましたという意図が見えづらかったので、ご自身がこの景色に心惹かれた理由や、シャッターを押したきっかけを、もう少し考えてみて欲しいと思います。


いかがでしたか?
次回は「もうちょっとで入選」20点の講評をご紹介します!


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