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HOW TO / 作品制作のヒント

名画に学ぶポートレート写真!フェルメール「真珠の耳飾りの少女」にトライ


「光の魔術師」とも称される、ヨハネス・フェルメールの名作「真珠の耳飾りの少女」。
誰もが一度は見たことがあるのではないでしょうか。

そんな世界の名画には、魅力的なポートレートを撮るための、どのようなエッセンスが含まれているのか。
写真家の齋藤岳実さんと、この絵に隠された“いいポートレートの要素”を分解しました!

※この記事は、PHaT PHOTO vol.75「変わる!私のポートレイト」の記事をもとに構成しています。

齋藤岳実(さいとうたけみ)
1985 年栃木県生まれ。2008 年東京工芸大学芸術学部写真学科を卒業。出版社勤務後、2011 年に独立。2011年「御苗場 in NY」に選ばれ New York Photo Festival(アメリカ)に参加する。SOUS LES ETOILES gallery(アメリカ)に て『BREEZELESS』展出展、72Gallery にて個展 『ズッコケ標本展』を開催。
howloml.tumblr.com

model:Kitayama Yui

名画を「真似て」徹底分析!

こちらが、撮影した「真珠の耳飾りの少女」。

本物と比べてみると…

PHaT PHOTO「変わる!私のポートレイト」号

なかなか良く撮れていると思いませんか?
この写真を分解して、「良いポートレートの要素」を探っていきましょう。

 

■まずは、青いターバンの「グラデーション」に注目

齋藤 「真珠の耳飾りの少女」を見たとき、はじめに目がいくのはこのターバンの鮮やかな青ではないでしょうか。このターバンの滑らかなグラデーションは、実はとても大切な要素。全体を明るくするのではなく、狭いエリアに向けて強い光を当てる「スポット光」を使い、コントラストを高くしながらも、このターバンの丸みがいいグラデ ーションを生んでいます。このグラデーションにより、女性的なやわらかさを感じることができます。

■被写体を浮き立たせる「明暗差」

齋藤 この絵を見て薄暗い部屋の高窓から光が射し込む様子を想像したので、そのような照明になるよう、ライティングを組んで撮影しました。先ほど記載した狭いエリアに強い光を当てるスポットの光を暗い背景の中で当てると、明暗差が生まれ人物が浮き出てくるような印象になることがわかります。

■振り向きざまの表情をイメージ

齋藤 この絵のシチュエーションを想像したとき、呼びかけられて振り向いた際の、不意を突かれた表情なのではないかと思いました。それを再現するために、実際に振り返ってもらいながら撮影を行いました。静止したままだと少し緊張していた顔が、動きをつけると和らいだ表情に。フェルメールは、振り向きざまの少女を描いたのではないでしょうか。

■一見「無表情」に見えるが実は…?

齋藤 撮影を行いながら気付いたのは、無表情よりも微笑んだときの方が、この絵の女性の表情に似るということ。ほんの少し口角が上がるだけで、フェルメールがこの少女に対してどんな思いを抱きながら 描いたのかの想像が膨らみます。

■魅力的な女性に見せるための作者の創作…?

齋藤 「真珠の耳飾りの少女」の光には“創作”があります。たとえば、少女の輪郭のハイライトと背中のシャドーから光の向きを考えると、耳飾りの輝きやターバンの明るさは不自然。この女性を魅力的に見せるためのフェルメールの演出なのでしょう。今回は写真なので、無理に光を当てず、表情を優先させて自然な光を意識しました。

アザーカットで勝手に想像!
女性の別の一面を伝えるとすれば!?

フェルメールが「真珠の耳飾りの少女」の違う一面を伝えるとすれば、どんな表現を使っただろう?
ということを想像しながら、アザーカットを使って人の表情や仕草が持つ意味を読み解きました。

■少女の愛らしさ

首と肩との距離を近づけることで、甘えたような仕草になり可愛らしさがアップ。首が見える部分が少なく、輪郭に丸みが帯びることも、少女らしさが強調される理由のひとつです。女性が持つ愛らしさを表現するとしたら、このように描いたのかも。

■女性の強さ

先の写真と全く印象が異なりますね。背筋をスッと 伸ばし、首のかしげ具合を少なくすることで、大 人びて見えます。表情の印象も重要ですが、首の見え方、長さも “大人の女性” として見せるために重要なことがわかります。女性が持つ強さを表現するならこんな描き方だったかもしれません。

■憂いのある感情

少し伏し目にし、口元を閉じれば、憂いのある表情と読み取ることができます。心理学で、左側に目を向けている場合は、過去を想起していることが多いそう。つまり、ネガティブな表情ともみてとれます。また、目線がこちらを向いていないことで、 見る人との距離も生まれています。

■ドラマチックな人生

顔への光の当たり方に注目。顔の前面に影ができると、心の裏側を表すような、ドラマチックなイメージになりました。波瀾万丈な彼女の人生を表現するとすれば、このように描いたでしょうか。この女性の内側を知りたくなるようなミステリアスなポートレートです。

■個人の肖像

女性個人のことをフェルメールが伝えたかったとすると、正面を向いた女性の肖像画になっていたでしょう。そう描かなかったということは、フェルメールがこの女性自身のことではなく、女性との関係性や思いを伝えようとしたのかもしれない…という想像が膨らみます。

■輪郭の美しさ

女性の美しさを引き出す方法として、横顔を見せるという方法もあります。「女性の強さ」でも試したように、首を長く見せると、顔が小さく見えて大人びた雰囲気になります。それをさらに強調させるには横顔が効果的

と、「名画」を真似ることによって、ポートレートでどんな表現をすれば何が伝わるのかを、少しでも感じてもらえたでしょうか?
みなさんも「名画」を参考に、ポートレートにトライしてみては?

▼撮影風景

 

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