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選ばれる人は何をしているのか?表現を豊かにする作品制作のルール~ハヤシユタカの場合


御苗場 vol.12 横浜」の会場でひときわ存在感を放っていた、ハヤシユタカさんの「The Zoological Garden ~言葉のない対話~」。動物の凛とした横顔もさることながら、作品を際立たせていたのは、細部まで美しいモノクロプリントです。そのクオリティが評価されてエプソン賞を受賞したハヤシさんに、作品やプリントのこだわりについて聞きました。

動物と無意識の中で会話する感覚。
それが「言葉のない対話」でした。

――まるで肖像写真と呼びたくなるような、動物の写真ですね。この写真からは想像もつきませんでしたが、動物園で撮影したと聞きました。なかなか大変だったのではないでしょうか。

そうですね、基本的に一般のお客さんとして動物園に行って撮影しているので、檻の外からの撮影となります。その隙間から狙い、動物のいる場所や横を向いたアングルになるまでファインダーを覗き続けなければならないこと、また横向きになった際に、自分が集中して動物と向き合えたタイミングでないと撮れないなど、撮影できる条件が限られているのが大変でした。それに、慣れてくると無意識に向き合えず意識的に狙ってしまうので、撮れない日は全く撮れません。自分が動物たちと向き合える状態を作ることに苦労しました。

――「言葉のない対話」というタイトルも印象的でした。

動物園にいる彼らとは、言葉が通じることはありませんが、ファインダー越しに覗いている時に、吸い込まれるような瞬間があります。そこでは周りの雑音や声などもなくなり、動物園という場なのに、自分と動物たちだけの空間のようになるんです。言葉はないですが、会話しているような感覚になりました。人と会話する際は、言葉や“同種”ということで意思が通じあい、会話も意識があるもの。動物たちとの会話は、無意識の中で会話している感覚です。それを「言葉のない対話」としました。そして、無意識の対話で彼らから感じたものは、今の自分自身なのかもしれない、と思いました。そんな「言葉のない対話」を見る人にも感じてもらいたいと思い、作品のタイトルにしたんです。

――対話と言えば「正面」の印象がありますが、なぜ横向きで撮影したのでしょうか。

動物たちとの対話は「意識」ではなく「無意識」での対話になるので、正面では意識的に向き合う感じが強くなりすぎると思いました。でも、たまたま撮れたカットで構成するには、動物たちとの対話を伝えるのが難しい。シリーズ作品として見る人にフラットな印象を与えたかったので、横向きで統一しようと思いました。また、肉食系動物は獲物を得るために目が正面を向いていますが、草食系の動物は周りを見渡せるように横を向いているんです。そういった比較なども見られるのでこのアングルに統一してよかったと思います。

――なるほど。そういう理由があったのですね。

また、写真を見る人に自分が撮影している時の雰囲気を少しでも感じてもらおうと思って、モノクロにしました。極力、余分な情報も排除して、集中して動物たちと向き合えるようにしようと思い、色情報を少なくしたんです。

ただのモノクロの動物写真にならないよう、
「言葉のない対話」を体感してもらうため表現にこだわりました。

――人に見せるための“展示作品”をつくる際に、こだわったことはありますか? 

コントラストが高いモノクロ=「かっこいい」イメージになりやすい感じがするので、ただのモノクロの色合いだけの動物写真にならないように意識しました。そして、動物たちとの対話を擬似体験してもらうために、撮影の段階から表情や毛や肌の質感の表現にはこだわりました。実際はモノクロではなく多少の彩度がありますが、テストプリントの段階で完全なモノクロでは質感がでない被写体もありましたので、被写体毎に毛や肌の質感を表現し、最適な形にしました。

――撮影の段階から、プリントについて考えることが大切なんですね。

そうですね。プリントは、撮影がしっかり出来ていたので特別なことは何もしていません。それよりも撮影段階で、動物たちと実際に目の前で向い合っているように見えるよう、光のあたり方や肌や毛の質感をしっかり表現できるようにし、レタッチもほとんどしないでいいように意識して撮りました。額装はアクリル加工にしましたが、印刷の質感をより良く見せられるのでよかったです。

「御苗場vol.12 横浜」での展示

――来年2月に16回目の御苗場が開催されますが、ハヤシさんが出展しようと思った理由と、出展して良かったことを教えてください。

私はデジタルハリウッドというスクールでWebデザイン全般の講師をしています。アウトプットする作品は、基本的にインターネット上やモニターなど、デジタルだけの発信となります。しかし、生徒には、ブログやモニター上だけでなく、紙選びや印刷、展示方法など、作品をトータルにデザインする機会を持ってもらいたいと思っていて。学校以外の、自分の知らない人に作品を見てもらう機会をつくってもらいたかったので、自分も見本として出そうと思って出展しました。

出展して良かったのは、「PHaT PHOTO」の皆さんとつながりが持てたこと、写真家の方とも知り合いになれたことです。また、Webサイトにインタビューが掲載されたことも、嬉しかったですね。

 

――コチラのページでは、ハヤシさんのように存在感のあるモノクロプリントに挑戦した人のためのインクジェットプリンターを使用したモノクロプリントのテクニックを、エプソン販売株式会社のプロフェッショナル・アート・プリンターの小澤貴也さんに教えていただきます。お楽しみに!

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ハヤシユタカ
2001年有限会社ムーニーワークスを設立。Web制作のほか、書籍執筆、セミナー講演、企業研修などを行う。2003年にはデザイン表現のスキルアップの一貫としてデジタル一眼レフカメラを購入し、独学でカメラを勉強。クリエイター育成機関デジタルハリウッドにて1999年より教鞭をとり、2004年からはデジタルハリウッド大学大学院、明治大学大学院非常勤講師を歴任。
moonyworks.comwww.html5-memo.com

 

「御苗場vol.16横浜」
■開催日程:2015年2月12日(木)~15日(日)
■会場:パシフィコ横浜 アネックスホール(CP+2015にて)
▼詳細は下記Webページへ▼
www.onaeba.com


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