スマホの中の私の日常 vol.5 片山浩朗「今年1月にガラケーからスマホにした」
変わりゆく日々の中で、今、みんなの目に映るものはなんだろう。簡単に知ることのできない他者の視点には、思考と経験の足跡が刻まれているはず。そしてそれは、最も身近なスマホに詰まっているのかもしれません。
第5回は、音楽家の片山浩朗さん。DJ PSYCHOGEMとして活躍する傍ら、家事に育児に奮闘中だという片山さんの捉える世界を、スマホに保存されている写真からのぞいてみます。
あなたのスマホの中身、見せてください。
2021年1月18日
アトリエの窓から入る西日の光が綺麗だった。
この頃、妻に誘われた石元泰博展に感激。
父親の一眼レフを弄っていた10代の頃とは違う楽しさ、奥深さを50代になって学んでいる。
2021年5月9日
コロナ禍に入ってから家族でドライブをよくする。
娘の人気目的地、かかしの里。
牛のかたちをした案山子。
2021年6月17日
2階にある夫婦の寝室を私の荷物で埋めてしまったために、妻が荷物をまとめて一階の客間へ引越してしまった。
そこには変な位置に窓があって娘が気に入っている。
キョトンとしていて可愛い姿を撮影。
2021年6月20日
うる星やつらビューティフルドリーマーを思い浮かべながら。
2021年6月29日
約2万枚を収納しているレコード棚の一部。
ここに引越してから2年3ヶ月経った今も、引越し業者のダンボールが散乱している。
流石にこれは不味いと思っている(妻には言えない)。
2021年7月3日
娘と2人で遊園地へ。
電動カートをひとりで運転している娘に涙腺緩む。
縁もゆかりもないこの街で新たな思い出作り。
2021年7月17日
昨夜は娘が何度かうなされて起きたので、その都度抱っこして寝付かせる。
義足を脱いでしまうと「立って抱っこ」のリクエストに応えられない妻の代わりに、夜の寝かしつけや抱っこは自分の担当だ。
その後AM5:00に突然起こされ「パパ、妖怪ウォッチ観たい」とぼそぼその可愛い小声で言ってきた。
目の上を蚊に刺され、ボクシングで一発殴られてきたかのような娘の顔。そんな娘からのお願いに、早朝にもかかわらずテレビのスイッチを入れそうになるが、夜遅くまで仕事をしていた妻が隣で寝ているので起こしたくない。
娘の気をはぐらかそうと、いつもの睡眠療法士監修BGM(これ本当にオススメ)をスマホで流すとすっと寝たので私も眠ることにした。
PM1:00
K家とみどり市にあるカフェ LE BAMBOUで待ち合わせ。
日頃、アトリエとスタジオの整備や庭の手入れをしているせいで、つい内装や庭に目が向いてしまう。外壁は緑の蔦で覆われており、古い建物を丁寧にリノベーションした店内にまで、その蔦が侵入している。
今まで見てきた蔦で覆われている建物は、ほぼ廃墟のような状態で鬱蒼としていて良い印象が無かったが、このお店の蔦は別物に感じる。
店主はカフェのオーナー兼ガーデナーなのだ。納得である。
今まで、家に蔦を這わせたいという妻の提案を即答で断ってきた。次は寄り添って検討しようかと思ってみたが、手入れは自分ですることになりそうなのでやはり断ろう。
このお店を妻は「パリみたい!」と、コロナ禍で渡仏できない分とても喜んでいた。
店主のストイックさが伝わってくる洗練されたシンプルな空間は、収集癖があると同時にため込み症でもある私が目指しても、到底たどり着けない。
いや、待て、過去の私は違った。
今は亡き父は建築家だった。中学生の時、事務所の2階に一人部屋を作ってくれたのだった。2部屋欲しいというわがままも受け入れてくれた。ひと部屋は無理を言ってフローリングにしてもらい、床に直置きでマットレスとテレビ、そしてレコードも聴けるKENWOODのコンポとアンティークの椅子があるだけのシンプルな部屋だった。群馬の片田舎で背伸びをしていた青くさい思い出だ。その部屋も父も私は自慢だった。
現在、レコード、ギター、シンセサイザーにエフェクター、漫画、おもちゃ、洋服に溢れた我が家には当時の面影など一切ない。
妻、娘、ごめん。
店主自ら焙煎しているコーヒー豆の薫りが香ばしく店内に立ち込めている。
ブレンドのホットコーヒーを注文。
美味い。
大切な友だちや来客があった際には連れてきたい。
妻が好きそうな美術書が置いてある。”OPERA de PARIS”!! やはりパリである。後でゆっくり読もう。
街道に面した大きな窓からの光が美しい部屋には、国産ビンテージGrecoのテレキャスとギターアンプ、ターンテーブル、音響システム。
カフェにあったらいいなと思う物がすべて揃っている……。
そう、私はパーティがしたいのだ。長年DJ活動をしてきた私にとって、パーティは人生の一部だった。結婚し育児に携わることになり、さらにはCOVID-19の流行によって、過去の環境が当たり前にあったことは奇跡的だったと痛感している。店主といつかの近い未来を語ることも私にとっては希望である。
コロナ禍に於いては困難な状況ではあるが、将来この空間で体験するかもしれない音楽イベントを想像しながらコーヒーをひと口、さらに美味しく感じられる。
次回はビールを飲みたいな、とは妻に言えなかった。
娘は自分で摘んだブルーベリーを笑顔で食べつつ、
店主の息子とも打ち解け遊んでいる。
今日はこれで思い残すことはない。
2021年7月24日
博物館のエントランスにて家族写真のつもりで撮影。
一般的な富士通のノートPCを利用していたのが興味深い。
片山浩朗 / PSYCHOGEM
音楽家 / DJ
10代後半、ロック少年だったがACID HOUSEにあえなく撃沈。さらなる刺激を求め1990年セカンドサマーオブラブ後期に渡英。帰国後、GOLDスタッフ、群馬県太田市のヴァーティゴレコード店長、サラリーマンを経て、現在脱サラDJ 2年目の50歳。美術家の妻と4歳の娘の育児・家事に奮闘中。
mixcloud: https://mixcloud.com/psychogem/