1. HOME
  2. Magazine
  3. 【マイケル・ケンナInterview】巡回展「JAPAN / A Love Story 100 Photographs by Michael Kenna」
Magazine

【マイケル・ケンナInterview】巡回展「JAPAN / A Love Story 100 Photographs by Michael Kenna」


世界的な風景写真家 マイケル・ケンナの作家活動50周年を記念し、「日本」をテーマにした巡回展「JAPAN / A Love Story 100 Photographs by Michael Kenna」が、2024年4月17日(水)から代官山ヒルサイドフォーラムにて会期がスタートしました。東京を皮切りに、ロサンゼルス、ロンドンの3カ国を巡回予定。

本展は、ケンナ氏が初来日した1987年から未公開・新作を含め、約100点の日本の風景写真によって構成されています。モノクロフィルムで切り取られたシンプルで美しい構図、そして自らの手でプリントされた作品の数々。

今回は特別にご本人に機会をいただき、本展示のテーマでもある日本の風景写真について、そして作家活動50周年を迎えた今、ケンナ氏がこの世界に入り、今の作風に影響を与えたという幼少期の頃のエピソードなどなど、貴重なお話を伺ってきました。
ぜひ展示を観に行く前の参考にしてみてくださいね。

ーーロンドン・カレッジ・オブ・プリンティングで本格的に写真を学ばれたと伺っています。最初に、写真を本格的に始めようと思ったきっかけは何ですか?

私はイングランド北西部、リバプール近郊の工業都市ウィドネスという貧しく、労働者階級の町で生まれ育ちました。幼少期の体験が人生に大きな影響を与えるのは明らかで、5人兄弟だったとはいえ、少年時代の私はかなり孤独でした。駅や工場、ラグビーのグラウンドや運河の曳き道、誰もいない教会や墓地など、後に写真に撮ると面白いと思うような場所を歩き回って冒険するのが好きで、当時はカメラを使っていませんでしたが、この時期は、後に美術学校や写真学校で学んだ時期よりも、最終的に私のビジョンや写真家になるという決断に大きな影響を与えたと思います。

私が初めてモノクロフィルムを現像したのは、11歳か12歳の時でした。写真は、クリスマスプレゼントにもらったプラスチック製のダイアナカメラで撮ったもの。とても基本的なカメラで、使い方は簡単でした。ある時、学校の遠足でチェスター動物園に行ったときに誤って落としてしまいレンズが割れてしまったのですが、のちに私がプラスチックカメラに魅了され、ホルガ(Holga)の画像をまとめた写真集を出版することになったのは偶然ではないと思っています。

幸い、私はデッサンや絵画が得意だったようなので、当時両親が住んでいたオックスフォードシャーのバンバリー美術学校に進み、その後、ロンドン・カレッジ・オブ・プリンティングで写真を専門に学びました。並行して、私の情熱と趣味である風景写真を撮影していました。

その後、ロンドンのフリート・ストリートにあるジョン・ヒレルソン・エージェンシーに就職し、アンソニー・ブレイクのアシスタント兼プリンターとなり、細々と写真家として活動していました。その後アメリカに渡り、幸運にも有名な写真家ルース・ベルンハルトの下で写真版画の仕事を見つけることができました。そして徐々に、自分の作品がギャラリーに展示されるようになり、プリントが売れ始め、展覧会が開かれ、出版もされ、ゆっくりとしたプロセスでしたが、私は商業とアートの両方の世界で徐々に地位を確立していきました。

Dancing Trees, Kussharo Lake, Hokkaido 2020  ©Michael Kenna

ーー日本の風景に魅了されたきっかけ、そして初来日から37年、その間に日本に対する印象はどのように変化しましたか?

まず、新刊の中の私の言葉を参考にさせてください。

鴨川の流れを眺めながら、僕はこの小文を京都で書いている。いくらか郷愁も覚えながら、この古都を36年前に初めて訪れたときのことを思い出している。すべてが新しく、刺激的だった。じっくりこの目で見て、探索し、フィルムに収めた。祇園の路地をぶらぶらと歩き、薄暗く、エキゾチックな仏教寺院へ、明るく、色彩豊かな神社へとおずおずと入っていった。儀式的な茶会に出席し、謎めいた漢字が書かれた美しい巻物に驚嘆した。熱い風呂につかる神秘を発見し、川沿いの古い旅館では畳の上で寝た。コンビニで食事を調達し、たどたどしい日本語にも初めて挑戦した。一瞬のうちに、静かに、どうしようもなく日本と恋に落ちていくのは避けようもなかった。もちろん、日本人にとって僕は常にガイジンだ。

『JAPAN / A LOVE STORY』より

この日本への恋心のきっかけは、私が日本各地や北海道を探検し始めるずっと前のことでした。この素晴らしい国の魅力を一言で言い表すのは難しく、日本には神秘的で素晴らしい魅力があります。比較的小さく、控えめで、何世紀にもわたって人が住んでいて、海に囲まれていて、土地や海辺の一部には物語がある。台風、地震、津波、火山噴火の可能性もある。土地が生きていて、力強く、要素が強い国。日本を体験することで、私たちが生きる世界の儚さと美しさへの気づきが深まると私は信じています。

初めて北海道を訪れて以来、北海道は特に魅力的な場所だと感じています。優しく魅惑的で、危険なまでに荒々しく、絶望的なまでにロマンチックな場所です。水に囲まれ、絶妙な湖、優美な山々、無数の雄大な木々があり、写真の被写体はどこにでもある。北海道の冬の厳しさは、身近な環境に対する意識を際立たせると私は感じています。葉のない木々、色彩の不在、不気味な静寂など、感覚的な雑念が減ることで、より集中した純粋な土地への集中が求められます。これらの条件は、私が現在進行中の創作プロセスにおいて最も重要であります。

Hyomon, Study 1, Kussharo Lake, Hokkaido 2020 ©Michael Kenna

ーー今までどのような困難に直面しましたか? それらは現在の作品に影響を与えていますか?

写真を始めたばかりの頃は、すべてのチャンスにイエスと言おうとしていました。何度も失敗し、振り返ってみれば、その失敗こそが、私が今成し遂げている成功の重要な要素だったように思います。展覧会に行ったり、本で有名な写真家の写真を見たりすると、その写真家たちは皆、自分自身がやっていることを正確に理解していると思っていました。ある種の若さゆえに、大人が何か答えを持っていると期待するのは普通のことなのかもしれません。今となっては、自分が何をしているのかもほとんどわかっていなくて、多くの写真家は、経験を積むことで知識や知恵を得るのかもしれないが、私にはそれができたとは言えません。それは、最終的な目的地も目標もない、空想的で素朴な霧の中への旅だったのだと、今になって思います。私の無知は結果的にとても良い友となり、当初は自分の無知を意識していなかったのに対し、今ではすべてを包み込む「未知の雲」の中で常に生きていることをより完全に受け入れ、感謝できるようになりました。

また、私が写真の世界で長く生きてきたからといって、私が専門家になれるわけではないということも言っておきます。写真の世界は、私がキャリアをスタートさせた頃とは進歩していて、当時は、写真は科学であると同時に芸術でもありました。写真にはさまざまなものがあり、複数の目的があり、そのすべてに熟達するためには時間とエネルギーの大きな投資が必要でした。私の経験では、複雑な化学的手順と厳密な職人技は、一連の中で必要不可欠なピースの一つでした。創造的であろうと考える前に、そのプロセスに内在する技術的側面をマスターするために多大な時間を費やすほかなかったのです。

 

Sadakichi’s Docks, Otaru, Hokkaido 2012 ©Michael Kenna

それから早50年、私は今、朝のコーヒーを淹れる以外のことは何でもできてしまう携帯電話を手に取っています。素早くスナップ写真を撮ることができ、画像をお世辞抜きで美しく仕上げるための無数のアプリがある。本物の “カメラ”では数週間かかるようなことも、1分もかからずにできる。ソーシャルメディアでは、毎日何千枚もの壮大な画像も平凡な画像も見ることができる。適切な時に適切な場所にいれば、写真はほとんど勝手に撮れる。私は、誰もがアクセス可能な、写真の「ペイント・バイ・ナンバー*」の時代に来ていると感じています。比較的新しいAIの可能性については、私はそこに行くつもりもなく、その影響を理解することもできません。私は非合理的に暗室の洞窟で楽しく過ごすつもりです。もちろん、写真におけるすべての変遷のさまざまな側面に心から拍手を送り、一方でゼラチン・シルバー・プリントの錬金術的な神秘さと貴重さを切に求めています。
そして私が考えるべきことは、共通の写真言語への比較的容易なアクセスが一般的になった中で、独創性のある唯一の個人の考えとビジョンを見つけるために、自分自身の内面を深く見つめることがより一層必要になっているのではないかということ。それは、アーティストを目指す者にとって、価値ある挑戦的な目標であります。

*ペイント・バイ・ナンバーとは、1950年代初頭 にアメリカで流行した、アマチュアがプロ並みの油絵が描けることを売り物にした絵画キットのこと。

ーー今回の展覧会で注目すべき作品はありますか?また、今回の展覧会を通して伝えたいメッセージをぜひお願いします。

それは見る人それぞれに委ねたいと思っています。単純に、伝えたいメッセージは、日本は信じられないほど美しく、神秘的で、多面的な場所であり、大切にし、尊重し、敬意を払い、愛するべきだということです。時として、私たちは身近な環境を当たり前だと思い、それがいかに特別なものであるかを忘れてしまう。この外人による写真展が、日本を体験できることがいかに恵まれているかを思い出させてくれることを願っています。この国で過ごす機会に恵まれたことに、心から感謝しています。

鶴が群れではなく1匹でいることは珍しい、と教えてくれた。

Red Crown Crane Feeding, Tsurui, Hokkaido 2005 ©︎Michael Kenna


 

Michael Kenna
1953 年 英ランカシャー生まれ。ロンドン・カレッジ・オブ・プリンティングで学び、卒業後は米西海岸に拠点を移した。現在はシアトル在住。2022年にはフランス政府から芸術文化勲章「オフィシエ」を授与された。日本では京都・奈良・北海道などの風景写真で知られており、日本をテーマにした写真集も数多く出版している。2019 年には45 周年記念写真展も東京都写真美術館で開催。多くの欧米、日本企業の CM にも写真が使用されている。所蔵美術館:ビクトリア&アルバート博物館、フランス国立図書館、サンフランシスコ近代美術館、東京都写真美術館など

■開催概要 
展覧会名:「JAPAN / A Love Story 100 photographs by Michael Kenna」
会期:2024年4月17日(水)~5月5日(日)
会場:代官山ヒルサイドフォーラム
開館時間:11:00~18:00(最終日は17時閉館。入館は閉館の30分前まで)
入場料:無料
主催:日本経済新聞社、FINANCIAL TIMES
企画:PETER FETTERMAN GALLERY
アートディレクション:RAM 、GALLERY ART UNLIMITED
お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル 全日/9:00~20:00)
公式HP:https://www.peterfetterman.com/japanalovestory/


STORY TELLER / 写真家達の物語 vol.37

フォトディレクターの推し写真集

まちスナ日和