花の撮り方にはまだまだ可能性がある。アーヴィング・ペン『フラワーズ』|飯沢耕太郎が選ぶ「時代に残る写真集」Vol.15


 
 アーヴィング・ペン(1917~2009)は、アメリカ、ニュージャージー州ペンフィールドの生まれ。フィラデルフィアの工芸学校で、アート・ディレクターのアレクセイ・ブロドヴィッチに学び、1938年からグラフィック・デザインの仕事を始める。『ヴォーグ』のアレクサンダー・リーバーマンに認められて、同誌でファッション写真を撮影するようになり、戦後、その第一人者として人気を博した。

 第二次世界大戦後のアメリカのファッション写真をリードし、リチャード・アヴェドンと人気を二分したアーヴィング・ペンは、常に実験精神を発揮して新たな領域にチャレンジする写真家でもあった。

 1940〜50年代には、スタジオにパネルを立てて狭い三角形の空間を作り、そこにモデルたちを閉じ込めて撮影するポートレートの連作を発表する。1974年に写真集として刊行された『小さな部屋の中の世界』(Worlds in a Small Room)では、テント形式の仮設スタジオを世界各地に設置し、その土地の住人たちを撮影した。代表作の一つである「シガレット」のシリーズでは、道端に投げ捨てられた煙草の吸い殻を、8×10インチ判の大判カメラで撮影し、プラチナプリントに焼き付けた作品を制作している。

 1967年から73年にかけて、毎年『ヴォーグ』のクリスマス特集号に発表された「フラワーズ」も一筋縄ではいかないシリーズだ。罌粟(ポピー)、チューリップ、薔薇、百合、芍薬、蘭、ベゴニア――これらの花々はポピュラーな被写体として多くの写真家たちに撮影されてきたものだが、

ペンの写真の魔術によって、新たな命を吹き込まれ、まったく違った貌つきを見せるようになる。

 

 ペンは、白バックのクローズアップという、極めてオーソドックスなやり方で撮影しながら、花々のエロティックなフォルムを強調し、水滴などを散らして、その生命力を引き出そうとする。萎れたり、散りかけたりした花を撮影したものもあり、こちらは逆に死の匂いが色濃くたちこめている。花という使い古された主題には、まだまだ多くの可能性が秘められているということだろう。

 写真集に掲載された写真は、クロメコート紙という光沢のある特殊な用紙に6色で刷られている。その印刷効果が素晴らしく。あたかもオリジナルのカラープリントを見ているようだ。隅から隅まで気配りが行き届いた、完成度の高い写真集といえるだろう。

飯沢耕太郎が選ぶ「時代に残る写真集」Vol.15
Irving Pen, Flowers, Harmony Books, 1980

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