1. HOME
  2. Magazine
  3. HOW TO / 作品制作のヒント
  4. 写真家・渡部さとるが語る、ポートフォリオレビューの前に考えるべき“相手の欲望”
HOW TO / 作品制作のヒント

写真家・渡部さとるが語る、ポートフォリオレビューの前に考えるべき“相手の欲望”


写真のプロに自分の作品を見てもらうポートフォリオレビュー。
作品を売り込むためには、実際のレビューに臨む前に知っておくべきポイントがたくさんあるのです。

様々な場所で展示を行い、また自身もレビューを受けてきたという写真家の渡部さとるさんが、どんな風に自分をアピールするべきなのか、これからレビューに挑む人へアドバイスを送ります。

※本記事は、PPC年間優秀者に輝いた船見征二さんのポートフォリオレビューの内容を抜粋したものです。

――――――――

レビュー前に考えるべき“相手の欲望”

レビューに臨む前にまず覚えておいて欲しいのは、プレゼンの効果的なアプローチの方法。作品がいいか悪いかの評価は、実は相手がどんな場所で活動する人かによって違います。

大切なのは、相手の欲望を知ることです。
たとえばギャラリーや美術館では写真が評価されなくても、フェスティバルでは高評価を得る時もあります。あるいは、日本のギャラリーはダメでも、フランスでは喜ばれることも。良いか悪いかは、相手がどんな作品を求めているのかという欲望によって変わってくるのです。

確かに一定のクオリティというのはどんなシーンでも必要ですが、作品の完成度だけを軸に写真は判断されるわけではありません。だから、もし写真をプロに見せて否定されたとしても、そこまで気にする必要はないと僕は思っています。相手の欲望にたまたま合わなかったんだなというくらいで捉えるのがいいかなと。

ただ、その時には、それでは彼・彼女の欲望はなんだったんだろうと考えてみることがポイントです。相手の欲望がわかれば、自分との相違に気づき、どういった場所にアプローチすれば効果的なのかがおのずとはっきりしてくるのです。

今回は、美術館・ギャラリー・フェスティバルの3つのケースに分けて解説します。

美術館


美術館の目的は、大きく言えば収蔵すること。そのため、美術館にアプローチする場合には、まずはどういう作品が収蔵されるのかを考えなければいけません。
一般的に、美術館が集めたいのは、

50年、100年後の将来に「こういう文化活動を祖先はしていたんだ」と振り返れるようなもの。つまり、時代性が色濃く出ているような作品の方が望ましいです。

アート作品として美しいものは、既に美術館は収集しているので、現在ではあまり対象にはなりません。それよりも、現代の世相や風潮が反映されたようなものの方が、長期間保管しておく美術館の場合はいいと思います。

僕の作品も、アフリカやアジア・中東の非西洋文化を扱うフランスの美術館に収蔵されたことがあります。それは、日本の写真の認知度が低い時期で、たまたまその美術館が日本の写真を扱ったことがなかったから。コレクションされるのは、写真自体がいいという理由だけではないのです。別の日本人がその美術館を訪れ、「日本の作品を収集したい」という相手の欲望とくっつけば、僕でなくてもよかったかもしれない。相手の承認、そしてこちらのアプローチが合致するのは、タイミングも重要です。

ギャラリー


ギャラリーの場合は、作品を売らなければいけません。
来場してもらうことも大切ですが、作品を買ってもらわないと困るんですね。だから、販売するためにはある程度完成度の高いものを求められます。

そして、サイズの問題もある。あまりに大きいと買った人が作品を飾るのも大変なので、僕が体験した限りでは抱えられるくらいのサイズの作品が傾向としては好まれるように感じました。そうすると、おのずと自分の作品のサイズも定まってくる。重要なポイントは、ギャラリーが売りたいものかどうか。売りたいギャラリーの意見と、収蔵したい美術館の意見は、異なることも多いですね。

フェスティバル


アプローチとして面白いのはフェスティバル。今日本でも様々な写真フェスティバルが開催されていますが、それは単純に見せるためのもので、それぞれの主催者の異なる欲望があるんです。たとえば、「地域と写真を結び付けたい」、「新しい写真を探したい」など。
その求めるテーマに合うと、そこで展示をするという非常にダイレクトな結びつきができてきます。今日レビューを受けて、3か月後には企画実施などということも多く、とても動きが早いのがフェスティバルの特徴です。

 
 
美術館、ギャラリー、フェスティバル。
3つのケースで相手の欲望は違いますが、「私の作品はあなたの欲望とこういう風にコネクトします」という説明をすればいいんです。だから、よくある間違いとして覚えておいてほしいのが、作者の内面的な話は効果的ではないということです。

「こういう風に生まれて、こう生きてきた」というのは、有効ではないとは言いませんが、その作品が相手とどういう結びつきを持てるのかを説明した方が食いつきはいいはずです。

たとえば展示をするならば、このサイズで、こういうことをすることによって多くの人に来場してもらえる。あるいは、こんな感情を抱かせることができるというような、具体的な話をしたほうが説得力が出るんです。僕自身も以前そのような間違ったアプローチをしていて、余計強く感じている部分なので、これからレビューを受ける方々には注意してほしいと思います。

渡部さとる

1961 年山形県生まれ。日本大学芸術学部卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ、報道写真を経験。退職後、スタジオモノクロームを設立。フリーランスでポートレイトを中心に活動。2003 年より自身が講師を務める写真教室2B を運営。写真集に『traverse』、『da.gasita』(冬青社)、著書に『旅するカメラ』(エイ出版)など。
www.satorw.com

2019年9月1日より主催する2Bの内容をYou Tubeで動画にて順次配信予定。
渡部さんの講座を動画でも楽しめます。
www.youtube.com/channel/UCfaR0r_x5jN3gOXYYBjNkkQ

レビューの様子を見る

保護中: レビューに大切な「オリジナル」の意味 PPC道場年間優秀者・船見征二×渡部さとるのレビューレポート1/2

保護中: 作品制作に必要な未来の視点 PPC道場年間優秀者・船見征二×渡部さとるのレビューレポート2/2


STORY TELLER / 写真家達の物語 vol.37

フォトディレクターの推し写真集

まちスナ日和