発表! 写真評論家/飯沢耕太郎が選んだ2018年の写真集ベスト3とは?
2018年もたくさんの写真集が出版された。写真集食堂めぐたまでは、年末になると、その年に出版された写真集で手元にあるものを積み上げて「ブック・ツリー」をつくるのだが、2018年は例年よりもその高さが増してきているように感じる。その中から印象に残った3冊を紹介しよう。
岩根愛『KIPUKA』(青幻舎)
岩根愛は2006年頃から「ハワイにおける日系文化」に強い関心を抱くようになり撮影を続けてきた。そんな中で、ハワイ各地でおこなわれている「BON DANCE」に興味を持ち、そこで唄い踊られている「FUKUSHIMA ONDO」の原曲が相馬盆唄であることを知る。
その後、福島県出身の日系一世たちのルーツを辿るとともに、東日本大震災後には、福島県三春町にも拠点を置いて撮影を続けてきた。青幻舎から刊行された写真集『KIPUKA』では、ハワイと福島の写真がダイナミックに融合し、魂と魂が呼び交すような気配を感じとることができる。なお、タイトルの「KIPUKA」とは、溶岩の焼け跡から生えてくる植物を指すハワイ語だという。
奥山淳志『弁造 Benzo』(Sakura studio)
奥山淳志は25歳の頃から、北海道新十津川町で自給自足の生活を送る「弁造さん」(井上弁造、当時78歳)を撮影し始めた。「弁造さん」は独学の画家であり、2012年に92歳で亡くなった。今回、私家版で出版された『弁造 Benzo』は、「弁造さん」の没後に撮影したという、彼が遺した絵のエスキースや「庭」の光景も含む厚みのある人間ドキュメントである。
他者の人生にカメラを向け続けるのは、そう簡単なことではない。モデルとの微妙な関係を保ちつつ、長期にわたって撮り続ける忍耐力が必要となるからだ。それとともに、被写体を強引にねじ伏せるのではなく、寄り添いつつ、受け容れていく姿勢も大事だ。奥山にはそれがしっかりと備わっている。
『PROVOKE』[復刻版](二手舎)
1968年に中平卓馬、多木浩二、高梨豊、岡田隆彦を同人として創刊され、2号から森山大道が加わった『PROVOKE』は、いうまでもなく、日本現代写真の起点となった伝説的な写真同人誌である。この所、再評価の気運が高まっており、アメリカ、ヨーロッパでは『PROVOKE』をテーマとする展覧会が相次いで企画された。
今回、二手舎から刊行された『PROVOKE』全3冊の完全復刻版は、その流れを加速させる、大きな意味を持つ出版企画といえる。特筆すべきなのは、テキストがすべて英語と中国語に翻訳されていることで、日本語が読めない外国の読者にとってはこれ以上の朗報はないだろう。
古書価格の高騰で、1960〜70年代の日本の絶版写真集を手に入れるのは極めてむずかしくなっている。新刊書の刊行はむろん大事だが、今後は写真集の復刻にもぜひ目配りしていってほしいものだ。
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