テラウチマサトの写真の教科書16 撮りたいものが見つかった、タヒチでの出来事
写真の学校を卒業したわけでもない、著名な写真家の弟子でもなかったテラウチマサトが、
約30年間も写真家として広告や雑誌、また作品発表をして、国内外で活動できているわけとは?
失敗から身に付けたサバイバル術や、これからのフォトグラファーに必要なこと、
日々の中で大切にしていることなど、アシスタントに伝えたい内容をお届けします。
8年間、通ったタヒチの日常風景を写した写真を、写真集として上梓したテラウチマサト。
今回はタヒチでの撮影秘話です。
価格:4,000円(税込)
仕様:上製本/W148mm×H195mm/176ページ/特製ケース付き
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タヒチは新婚旅行で行く島?
タヒチを訪れたきっかけは、タヒチ観光局から、「撮影ツアーをやりませんか」と声をかけていただいたことだ。
タヒチって、新婚旅行に行く島だと思われているところがある。
でも本当はそうじゃない。
たとえば、スウィート10ダイヤモンドという言葉があるが、
そういう、少し年を重ねた夫婦や、仕事に自信をもって活躍できるようになった人たちがじっくり訪れて味わう島。
そういうことをPRしたいという話をいただき、訪れたのがきっかけだった。
たしか、「PHaT PHOTO」写真教室の生徒たちと一緒に行ったと思う。
タヒチ観光局の方にいろいろとお話を伺った。
日本人にはタヒチ島とボラボラ島くらいしか知られてないけど、
タヒチは118の島で構成されていること。
それから8年間連続で毎年11月から1週間、訪れていたが、通算すると12年通った。
それまでタヒチはゴーギャンのイメージしかなかった。
そして、美しい海というメージ。でも行ってみて気づいたのは、
タヒチの魅力は海だけかというと、素晴らしい山の景色や夜の美しさもあるということ。
女性で日焼けしたくない人もいると思うが、そんな人にもお勧めだ。
手を伸ばせば届くような満天の星。
宇宙の気配そのものに包まれてる夜に出合ったとき、タヒチの魅力は昼間の海だけではない、山も夜もあると思ったのだ。
通うに連れて、タヒチのいろんな島に行くようになりイメージは変わった。
タヒチの深さを知ったのだ。
真夜中のアシスタントからの電話
タヒチを訪れていたある日、印象的な出来事があった。
当時アシスタントで、いま「PHaT PHOTO」写真教室の講師をしている、まるや君(まるやゆういち先生)から深夜の電話。
タヒチは真夜中の3時半だった。
何事かと思って電話に出たら、
「そちらは、綺麗な海ですか〜〜!」と、テンションの高いまるや君の声。
「まるや君、いま深夜3時半…」
「へええ!」と言ってガチャリと切れた。
そのテンションで目が覚めて眠れなくなってしまった。
仕方なく外に出て、夜の星を見に行ったら、すごくて。
流れ星もあった。
撮影しているうちにだんだん夜が明けてきて、その真夜中の満天の星から朝に変わる時間が本当に綺麗だったのだ。
写真をいっぱい撮った。いままで1回も撮ったことのない時間。
満天の星は撮ったことはあったけれど、
この、移りゆく時間をまるや君のおかげで撮った。
そこから、そういう移りゆくものに興味が行き始めた。
花を撮るなら満開の花も綺麗だけど、蕾や散り始めようとしているところなど…。
言われてみれば、「もののあはれ」に代表される日本人の美意識っていうのは清少納言や紫式部もそうだけど、絶頂期じゃなくて移ろうあいだのところに美がある。
そこからタヒチを見る目がさらに変わった。
そして、ある日、
「みなさんが綺麗ねって言っているブルーラグーン、すごく美しい場所は、かつて陸地だったところが徐々に沈んでいって、海に変わろうとしているところです」と、あるガイドさんが言った。
陸地だった場所が徐々に沈んで、陸だった場所が海になろうとしている。でもまだ海じゃないと言われたのだ。
だから水深が浅くて、すごく綺麗。
陸から海になろうとしている狭間がいちばん綺麗なんだと知ったとき、真夜中から朝になろうとしている時間と、オーバーラップした。
そんな出来事がきっかけで、
タヒチで「狭間」を撮ろうと思い始めた。
「昼と夜の間」というタイトルにしたのは、そういう出来事があったからだ。
写真家はものを見ることのプロ
写真家は、単純に風景を見ているだけではない。
それが、写真を見ている人に伝わればいいなって思う。
例えば、波の写真を見ているときに、
なにかふつふつと、目には見えてないのだけど、心に湧き上がってくる感情ってある。
それが本質を「見る」ってことだと僕は思う。
美しい花の写真ですねって見てくうちに、明日からもっと元気に生きていこうとか、そう感じてもらえたらいいなという写真を選んでいて。
「癒されるってなんだ?」と考えたとき、
癒されるって、「よしよし」って頭を撫でてもらうことじゃなくて、自分の心の深いところに帰っていって、もう1回頑張ってみようかなとか、よし、こんな生き方だったらできるかもしれないって気づくことが「癒される」ってことじゃないかなと思う。
肝っ玉かあさんみたいに、ぽーんと背中叩いて、頑張ってきなよ!っていう感覚になれたらいいなと。
そうなれることが、本当の癒し。
だから、心に傷のある男や女も、タヒチの沈んでいく夕日を見ればいいと思う。
そういうものをキレイに吹っ切らせてくれるし、ありふれた幸せよりもっと大切なものがあることがわかってくる。自分自身と本当に向き合うことができるのだ。
今回の作品には、そういうメッセージを込めている。
テラウチマサト写真集 『タヒチ 昼と夜の間』Q&A
Q.撮影のときにいちばんこだわったのは?
波のシリーズ。一眼レフカメラを持って海に入って、ストラップは完全に塩水に浸りながら、立ち泳ぎしながら撮っています。
シャッタースピードを少しスローにして、「いまだ!」って思って撮っています。
これは数枚しか撮ってないけどむちゃくちゃうまくいきました。
Q.写真集の写真セレクトは誰がしましたか?
私があら選びして、アートディレクターにお願いしました。写真集には人が写っている写真が少ないのですが、アートディレクターの「普遍的な写真集にしたい」という思いで、人のカットは全部外されています。人物の服装や持ち物などで、何十年か後に古びて見えてしまう写真は外そうと。私も納得はしましたが、実はもっと見せたい写真もたくさんあった(笑)。
その分、写真展の会場では、見せたかった子どもの写真を3枚展示していて、初日に早速売れました。写真集に収録されなかった写真はポストカードにしているので、ぜひ見てほしいですね。
Q.ポストカードの写真について
ポストカードって誰かにメッセージを送る物だから、これをもらった時にどういう気持ちになるかなって考えていて。
ワンちゃんが海の中をゆっくり泳いでる写真は、日本人がほとんど行かないタハァ島で撮っています。ボラボラ島を眺めるには最高の島で。
ワンちゃんがこう、犬かきでゆーーっくり僕と並行して泳いで来たんだけど、それを撮ったらみんなホッとした気持ちになってくれるんじゃないかと思ったし、涼しげな風を感じるだろうと。
Q.この写真は空撮ですか?
いまだったらドローンで撮るのかもしれないけど、パラセーリングしながら撮っています。パラセーリングで300mって基本的にはないんですよ。普通どんなに高くても150mだから。ガイドさんが「高いところは平気?」って聞いてきて、「いい写真撮るためなら平気」って言ったんです。
でも乗ったらすっごく怖い(笑)。一眼レフカメラを持っているんだけど、怖くて離せないの。これはそこから撮った写真。ほんとに怖かったです。
水平にしなきゃ、水平線見つけてちゃんと撮らなきゃ!って思いながら、揺れながら…。300m上空でブランコに乗っている感じ。
東京タワーも撮影でてっぺんまで行ったことがありますが、でもそれより怖かった。東京タワーの時はまだ足場があったし。ほんとに怖かったですね。
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【写真集&写真展】テラウチマサト タヒチ「昼と夜の間」
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