鈴木理策/中藤毅彦/テラウチマサトが選んだ理由は?入選10作品の評価ポイントをチェック!
「PHaT PHOTO」の人気コンテストPPC。
毎号異なる3名の写真関係者を審査員としてお招きし、座談会形式で審査を行います。
本記事では、上位7作品に続いて、入選10作品をご紹介します。
評価ポイントに加えて審査員からのアドバイスも。審査員たちのさまざまな視点から、あなたの写真がレベルアップするヒントが見つかるかもしれません。
審査員:鈴木理策/中藤毅彦/テラウチマサト
「2つの新しい未来」
結城幸雄
✔新郎新婦とおじいさんの対比が面白い
✔アングルを工夫すると、さらに面白さが活きてくる
——ここからは入選作品です。自由応募で結城幸雄さんの作品「2つの新しい未来」です。
テラウチ 手前の新郎新婦と奥のおじいさんの対比が面白いですね。
でも意外とこの写真の魅力は、背景のショーウィンドウの、サングラスをかけて電話をしている人物かもしれないと思いました。新郎新婦もサングラスをかけているので、そこに呼応しているのかなと。
もう少し右側から撮ったりしてアングルを工夫すると、さらにこのシーンの面白さが活きてくると思います。
中藤 いかにも記念写真に便乗したという風に見えてしまいました。手前の2人は左の方向にポーズをとっていると思うので、そのついでに撮っているような印象があります。
スナップとしては少し引けているかなと思いました。
鈴木 写真というのは、作者の考え方や工夫が見えて会話が成立するものだと思うんですが、この作品は割と楽をしているような感じがしました。
記念撮影している瞬間をメインとして考えた時に、そこに何を組み合わせるのか。
おじいさんに声を掛けたりなど、自分が積極的に動くことによって面白い瞬間を生み出していくくらいの気持ちが欲しかったですね。
「PINK」
冨樫良豪
✔写りこんでいる色や、水の反射、桜の鮮やさが美しい
✔大胆な切りとり方に挑戦してみても面白かった
――次に、自由応募で冨樫良豪さんの作品「PINK」です。
鈴木 目黒川ですかね。構図が当たり前すぎるなというのが最初の印象です。
この写真の見どころは、写りこんでいる色や、水の反射だと思うので、逆にそこだけを強調した方が絵としてはよかった気がします。
「PINK」というタイトルをつけるのであれば、
真ん中の部分だけを写して、大胆な切りとり方に挑戦してみても面白かったと思いますね。
テラウチ この場所に行って、いちばん最初に撮るカットかなと思いました。
まずはこの1枚を撮って、そこからアングルを変えたり、切りとり方を工夫していく。
いろんな写真を撮って、その中からどれを採用するのか、作品として出す過程をもう少し意識してみてほしいです。
中藤 お2人が言われたように工夫が足りないですね。
桜は鮮やかで美しいけれど、それ以上のものは感じられませんでした。切りとるポイントを変えたりして、実験することが必要かなと思いました。
「過去の情景」
入山裕
✔後ろの人がぼけて点在しているのが背景として面白い
✔言葉によって見え方が変わる、写真の面白さを改めて感じる作品
―続いて、自由応募で入山裕さんの作品「過去の情景」です。
鈴木 すごく素直な作品で、この写真をとても大事に思う人がいるんだろうなと思いました。
撮った方と写っている人たちの関係がどういうものなんだろうと気になります。微笑ましい光景のようなんですが、背景の人々がみんな向こうを向いていて顔が見えない感じが、少し怖く見えました。
中藤 最初に見た時はそこまで印象に残らなかったんですが、鈴木さんのお話を聞くと、それだけではなさそうな感じがしてきました。
ここでみんな何をやっているんでしょうね。後ろの人たちが少しぼけて点在しているのが背景として面白かったです。前に写る2人の存在を引き立てていると思います。
テラウチ 「過去の情景」というタイトルにいろんな意味が含まれていそうですよね。
そのタイトルから勝手に連想すると、にこやかに笑う2人が亡くなった人のようにも見えてきたりして。幸せな風景にも思えるんですが、背景があまりにも寂しいので、単純な家族写真ではないような不思議な感覚を覚えました。
言葉によって見え方が変わってきてしまう、写真の面白さを改めて感じさせてくれる作品です。
「ダンス」
渡部有美
✔目を引く技法に挑戦している
✔タイトルとの関連性が少し弱い
―続きまして、自由応募で渡部有美さんの作品「ダンス」。
中藤 どういう風に撮ったのかよくわからなかったです。合成なのか、映り込みなのか、多重なのか。
そのどれだとしても、結果的に作品としてできたものが、もやもやとして判然としない感じになってしまったかなと思いました。
明確な目的をもって、写真の組み合わせを考えてもらいたいです。
鈴木 「ダンス」というタイトルをつけるのであれば、踊っているということが伝わるべきなんですが、少し弱いかなと思いました。
リアルに写っているものに手を加えて、デザイン的に絵として成立していく段階でいうと、中途半端な位置にあるかな。たとえば、頭のところが抜けずにシルエットになっていたりすると、ダンスをしている人の輪郭がわかりやすくなるので、印象としては強くなりそうな気がします。
テラウチ どうやって撮ったんだろうというところに関してはとても興味がありますね。
このスタイルが何度でもできるものならば、もう1度挑戦してみてほしいです。そういう意味では、実験的な部分があって、習作という位置づけの作品なのかなと思いました。
技法は目を引くものがあるので、もうひとつ上に行く表現を自分なりに考えてもらえると嬉しいです。
「儚い刻に舞う」
鈴木伸昌
✔非常によく撮れたポートレイトで色彩的に美しい
✔1点で勝負する作品となるとパワーに欠ける
―次に、自由応募で鈴木伸昌さんの作品「儚い刻に舞う」です。
中藤
非常によく撮れたポートレイトだなと思いました。モデルの方も魅力的ですし、コスチュームやメイクもしっかりコンセプトを整えて撮られていますね。
とても上手なのですが、モデル撮影という以上の深みや違いという部分まではまだいっていない写真かなという感じがしました。
鈴木 撮影会なのか、個人で用意したモデルなのかによっても違いますよね。
自分でこのシチュエーションをつくり上げているのであれば当然何枚も撮れると思うので、それならばもう少し強い写真を選んでほしかったです。
それと、いちばん最初に表情ではなく髪飾りに目がいってしまうので、女性の顔や鼻の筋に寄って、被写体に迫ったポートレイトにした方がより面白くなる気がしました。
テラウチ 赤と白の2色の構成で、色彩的には美しいですね。背景を白くぼかした点も作者の撮影センスだと思うので、中藤さんが言われた通りある程度のレベルまではいっている。でももう少しモデルへの指示の仕方や、ポーズのバリエーションを増やした方がいいかなと思います。
モデルを紹介するポートフォリオの中の1枚としてはいいですが、1点で勝負するコンテストとなるとパワーに欠けてしまう。同じ動作を繰り返しやってもらったり、工夫が必要かなと思いました。