モデルリリースの書き方、モデル撮影でトラブルにならないための肖像権・著作権の考え方



写真:清水純一(PHaT PHOTO’S)

みなさんは、モデルリリースという言葉を聞いたことがありますか。
モデルリリースとは、人物撮影を行う際に、カメラマンとモデルの間で取り交わす、肖像権の利用許諾書のことです。

ポートレート撮影をしていて、身近にこんな事例は聞いたことがありませんか?
「有名になったので写真使わないで!」とモデルに言われて、気に入っていた作品が発表できなくなった。
あるいはモデルが何も知らされないままに、カメラマンが勝手に写真を発表していたことが分かった…など。

モデル撮影をする上で避けて通れないのが、モデルの肖像権の問題です。
後で大事な自分の作品が発表できなくなってしまうケースもあります。
そうならないためにも、モデル撮影における肖像権の知識、
そしてカメラマンが有する著作権の知識を、身につけておきましょう。

今回は、文化活動を支援するための法律家を中心とするNPO、Arts and Lawの馬場貞幸弁護士に、今の時代のカメラマンがモデルとどう約束を取り交わし、作品をつくるべきかお話を伺いました。

1.モデルリリースとは何か?
 1-1.メールやラインではダメなのか
 1-2.口約束は証拠にならない?
 1-3.実例:メールに何を記載すべきか
 1-4.権利を侵害した時の法的措置は?
 1-5.スナップ撮影についてどう考えるべきか
2.こんな事例は? Q&A
3.まとめ
4.プロフィール
 4-1.馬場貞幸弁護士
 4-2.Arts and Law

モデルリリースとは何か?

ストックフォトサービスなどで作品を販売した経験のある人は、モデルリリースの同意をモデルにお願いしたことがあるのではないかと思います。
では、個人的な作品撮りや、趣味で友人を撮影している際などはどうでしょうか。
SNSで簡単に知らない人ともコミュニケーションの取れる時代、きちんとモデルリリースを作成し、取り交わしている方は少ないかもしれません。

モデルリリースとは:
肖像権の利用許諾書のこと。主にストックフォトサービスでの写真販売のほか、CMや広告撮影など大きなビジネスの現場で使用される。許可なく写真を使用した場合、被写体から損害賠償請求や、公開の取り下げが行われる可能性がある。

「肖像権の利用許諾は基本的には取らなければならないものです。現にトラブルは起きているので、本来はきちんとサインをしていただいた方がいいと思います。カメラマンはもちろん、モデル側も意識するべきですね」と答えてくれたのは、馬場貞幸弁護士。

写真を撮影したカメラマンには「著作権」があり、写されたモデルには「肖像権」があります。

モデルリリースがなければ、カメラマンは、本来発表したかった作品が発表できなくなったり、モデルは、写真が自分の知らないところで勝手に使われるのではないかと不安を感じたり、意図せぬ使われ方をして不利益を被る可能性があります。双方の権利を守るのがモデルリリースの役目なのです。

「お互いの認識を記しておくのがモデルリリース。写真がどこでどういう風に使われるのかということをきちんと把握して合意をするということは、お互いにとって、とても大切なことだと思います」(馬場、以下同)

メールやラインではダメなのか?

今回写真を提供してくれた清水純一さんは、撮影や使用の許可をその都度メールでやり取りしている。

 
ではどのようなモデルリリースを作成すればいいのでしょうか。

参考までにストックフォトサービスで使用されているモデルリリースのサンプルをみると、「あらゆる用途、あらゆる目的で使用を許可する」「本同意書は、取消不能」などの文言が並びます。

広告に使われることが前提の写真であればまだしも、気軽な撮影の場面でこのような文面の書類にサインするのは、お願いするカメラマンも、サインをするモデルも、少しハードルが高いと感じられるかもしれません。

必ずこのような書類を残さなければならないのものなのでしょうか?

「いえ、そんなことはありません。私はメールやラインのやり取りで問題ないと思っています。ただ、その場合、文章が詳細に書かれていることが大切です。撮影や発表について明確に説明したうえで、承諾の返信をもらうということであれば、メールでも問題ないと思います」

つまり、「明日お願いします」「OKです」レベルのやりとりだと、「同意があった」という証明にはならないということ。撮影する写真を特定し、具体的な使用用途や目的、ネットでの発表の有無など、詳細を説明したうえでのやり取りであれば、メールで取る同意でもOKとのことです。

口約束は証拠にならない?

では、口約束はどうでしょうか。親しい間柄なら、電話1本で、撮影や公表の約束を交わすこともあるかもしれません。

「口約束でもいいのですが、録音などがない場合は証拠にはなりません。『立証責任』という言葉があり、トラブルになった場合に裁判所に証拠を提出して立証しなければならないのは、許諾を受ける側、すなわちカメラマンです。カメラマンが証拠を出さない限り、言い分は認められません」

撮影や使用を依頼するたびに、発言を録音をすることはあまり考えにくいので、やはりメールで同意をとるということがいちばん自然な形かもしれません。

「もちろん、契約書があれば『撮影や発表を承諾しています』という証明書になりますが、〝必ず書類をつくらなければならない〟というものでもありません。誰が見ても理解できるものが残っていれば、メールでも、ラインでも、録音でも証明になります。裁判になったときに、『メールは証拠にならない』ということは、基本的にはないでしょう」。

実例:メールに何を記載すべきか

撮影はOKでも、発表までは許諾していないということでトラブルになるケースがあります。

下記には本Webサイトに掲載の事例を記します。「1.撮影」、「2.発表」、「3.二次利用」、この3点を意識して書きましょう。

【送信メール例】

●モデル名●さんこんにちは。●カメラマン名●です。
来週、撮影をお願いしたくて連絡しました!

1.撮影について
2018年〇月〇日(土)13時~15時 東京・●●公園にて
衣装、メイクはご自身でお願いします。
なるべくシンプルな服装でナチュラルメイクが嬉しいです。

2.発表について
「PHaT PHOTO」Webサイトの「モデルリリースの基礎知識と重要性」の記事に掲載されます。
2018年6月●日に掲載されて、公開期限はありません。
どの写真を掲載するかは事前に連絡します。
記事公開後にも連絡します。
記事の告知の際に、SNSで写真が使用される可能性があります。

3.二次利用の可能性について
自身のWebサイトの作品コーナーやSNSで作品を無期限で掲載させてもらいます。
その際にモデルクレジットを掲載いたします。
また、ポートフォリオにもプリントした写真を載せる可能性があります。
それ以外の掲載の場合は、その都度メールでご連絡しますが、1週間、連絡が取れない場合は、こちらの判断で掲載させてもらう可能性があります。
ただし、公序良俗に反するWebや雑誌には掲載しません。

4.撮影データの受け渡しについて
撮影したデータは5点セレクトして差し上げます。SNSなど個人的な利用は自由にしていただいていいですが、販売や作品の改変はしないでください。撮影者のクレジットを入れてください。宣材写真として使用する場合は一度ご連絡ください。

5.撮影料
●●円+交通費
当日お支払いします。
今後、二次利用などでの支払いはありません。

上記で良ければ、●日までにご返信いただけますか?
不明な点があればご連絡ください。
よろしくお願いいたします!

●カメラマン名●

【返信メール例】

●カメラマン名●さん撮影のご依頼ありがとうございます。
了解しました。
ぜひ、よろしくお願いいたします!

●モデル名●

権利を侵害した時の法的措置は?

仮に、モデルの許可なしに雑誌に掲載するなどして問題になった場合、どのような法的措置が考えられるのでしょうか。

「モデルが掲載によって不利益を被り、『苦痛を味わった』と発表の取り下げを要請する可能性があります。雑誌なら回収、写真展だったら中止、Webだったら削除など、差し止め請求されることが考えられるでしょう」

たとえば副業禁止の会社で働いている人が個人的にモデルの活動もしていて、被写体となった写真が雑誌に載り、それが職場に知られて解雇されるというケースも考えられます。

「それは当人の責任でもありますが、解雇されたことの損失まで請求されてもおかしくない事案です。外には出さないつもりだった写真が外に出てしまってその人に実損害が出てしまった場合は、それも含めて損害賠償を請求される可能性はあると思います」。

また、親しい間柄の人物との口約束で同意が取れていたものであっても、時間の経過とともに意外なところでその約束が崩れ去ることもあります。

「以前、ある方を題材にしたドキュメンタリー映画があり、それにともなって写真撮影が行われて、写真展も行われる計画がありました。しかしその方が途中で亡くなられてしまいました。遺族の方がそのような扱いはやめてほしいとおっしゃられて、取りやめになってしまったことがあります。あくまで個人間の信頼関係でやっていたので、モデルリリースは取っていませんでした。そのため、覆されてしまったということはありましたね」

スナップ撮影についてどう考えるべきか

いままで話してきたのは、モデル撮影のケース。スナップ撮影の場合についても、訊いてみました。

個人が特定されない自然な写真

一瞬を切りとるスナップの場合はいろいろなスタイルがあります。声をかけて仲良くなり、連絡先を聞いて撮らせてもらう場合もあれば、街中ですれ違いざまに撮ることも。
後者の場合は、モデルリリースやメールで許諾のやりとりなど、1シャッターごとに行っているという人はおそらくほとんどいないでしょう。

「たとえば被写体が自然な雰囲気で写っていて、その人が不利益を受けたり、個人が特定されたり、風評被害に合うなどの苦痛を受けるということがない写真ということであれば、同意をとっていなくても問題のない場合があります。
しかしその写真に思わぬものが写っていて、自宅が特定されるなどの個人情報が明らかになってしまうと、トラブルになる可能性も考えられます。高額な慰謝料の支払義務を負うリスクは少ないと思いますが、『削除してください』『公表をやめてください』という場合には、取り下げなければならなくなると思います」

予想以上の拡散

Webメディアのファッションスナップではこんな事例もあります。

「インパクトが強い単語がプリントされたTシャツを着ていた人の全身像が大写しで掲載されてしまいました。これがネットでネタにされて、まとめサイトに載ってしまった。このケースは、慰謝料の請求をメディアの運営主体が受けました。いまはネットから削除されているようですが、当時はいろんなところに転載されていたようです。このような被害が大きかったケースで、裁判で認められた慰謝料は35万円程度でした。金額は損害の程度によると思います」。

いい写真・興味深い写真であることと、写っている本人がどう思うかというのは別の話し。

スナップなど同意のないケースでは、その写真を「取り下げてほしい」と言われたときに、どう被写体と向き合い、説明するべきかということは、常に考えておきたいことです。

 

こんな事例は? Q&A

このコーナーでは、「肖像権」や「著作権」について日ごろ気になっている質問をカメラマンに訊き、馬場さんに回答してもらいました。

モデルに『有名になったので使わないでほしい』と言われたが、写真家としては代表作なので、これからも発表していきたい場合は?

「使用は自由」と同意が取れている場合は、後々、モデル側でそれを取りやめるのは難しいです。しかし、「何が起きた場合でも使ってもいい」など、そこまで約束することはあまりないと思われます。「あの頃はいいと言ったけれど、状況が変化しても使わせてあげますよ、という意思表明ではない」、ということにはなるでしょう。
よく弁護士がつくるような本格的なモデルリリースで、「取消不能で、永久的に効力を有する」「全世界、無期限、取り消し不可能な同意をします」というような文言が入っているものがありますが、それだけ記載があれば、カメラマンが勝つのではないでしょうか。ただもともと商用ではなく、作品制作でそのような重い契約書にサインをしてもらうのは、難しいかもしれません。

モデルがカメラマンの家族や親戚の場合、何か変わることはありますか。

基本的に変わることはありません。家族の顔写真なら勝手に使ってもいいというルールはないので、同じように承諾をとるのが原則です。身内のほうが後々トラブルになる可能性が圧倒的に低いとは思いますが、離婚したり、トラブルになったり、家族間での人間関係が変わった際に、いままでの写真を削除してほしいなどと言われるいうケースはあり得ると思います。

ヘアメイク、スタイリストの場合はどう考えるべきでしょうか。モデルと同じように、2次使用時などに許諾を撮るべきでしょうか。

撮った写真は「著作物」と言い、撮影したカメラマンに「著作権」が発生します。それを複製しようが売ろうが、基本的にはカメラマンの自由です。モデルに対する「肖像権」の問題はありますが、メイク、スタイリストには基本的に権利は発生しません。契約書を交わしている場合は別ですが、たとえば、スタッフが2次使用料を請求することなどは難しいかもしれません。

モデルは自分が被写体となった写真を自由に使ってもいいのでしょうか。

モデルには「肖像権」がありますが、カメラマンには「著作権」があります。モデルが撮影した写真を宣材写真で使いたいということであれば、カメラマンに許可を取る必要があります。カメラマンの知らないところでいろんな媒体に載せたり、勝手に使ったりすることなどは、カメラマンの「著作権」を侵害することになりえます。

モデルが未成年の場合特に気を付けなければならないことは?

未成年の場合は、親権者の同意を得ることが必要になります。親権者の方に同意をいただきましょう。

2次使用料は払うべきでしょうか。

モデル料や2次使用料などは、払わなければならないという法律はないので、当事者同士の合意があれば、支払いの有無や値段がいくらでも問題はありません。ただ最初に取り決めがないと、たとえば、撮影した写真家がその後有名になった場合、突如として使用料を請求されるケースも考えられます。モデルリリースやメールなどで文章に残しておくべきでしょう。

いかがでしたでしょうか? ぜひ、これからのカメラマンとモデルの関係性の構築に活かし、いいポートレート作品をつくり上げてください。

まとめ

■モデル撮影の場合
☑相手への敬意とマナーを大切に!
いい作品をつくるためには、お互いの信頼関係がとても大切。双方の認識を一致させて撮影に取り組むことが重要です。事前に「撮影」「発表」「二次使用」に関する取り決めを行って、撮影に臨みましょう。メールやラインでもOKです!

■スナップ撮影の場合
☑真摯に対応する覚悟を
商用撮影や記録撮影の場合には、個人が特定できないように撮影に配慮するか、同意を取りましょう。写真家として作品撮影する場合で同意が取れない類の撮影の場合は、問題が起こった際に被写体に対して真摯な対応ができるように覚悟をしておきましょう。

プロフィール

馬場貞幸弁護士
1980年生まれ。慶應義塾大学大学院法務研究科卒。黄櫨(はぜのき)綜合法律事務所所属。一般社団法人ライツアンドクリエイション理事。アート・音楽・ファッション・広告・Web・アプリその他幅広いクリエイティブ活動に携わっています。クリエイターとIT事業会社等のプラットフォーマーの関係性を問う機会が増えています。(Arts and Law 公式サイトより)

Arts and Law
2004年に発足した文化活動を支援するためのNPO。弁護士、公認会計士、税理士、行政書士、司法書士などの専門家がボランティア活動として所属している。クリエイターやアーティストに対する法的な視点からのサポートを標榜し、写真以外にも、美術、工芸、デザイン、出版など幅広く法律問題の無料相談を受け付けている。

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