御苗場レポート ソニー ワールド フォトグラフィー アワード presents/ハービー・山口「ロンドンからスタートした写真家人生」
大阪で台風が猛威を振るった翌週の9月14日(金)~16日(日)。
天気の心配もありましたが、今年も予定通り大阪の海岸通ギャラリー・CASOにて関西御苗場2018を開催でき、多くの来場客でにぎわいました。
数々開かれたトークステージの中でもひときわ盛り上がったのが、9月15日(土)に開催された、ソニー ワールド フォトグラフィー アワード プレゼンツ、ハービー・山口「ロンドンからスタートした写真家人生」です。
写真家として約50年、第一線で活躍し続けてきたハービー・山口氏は、現在、ソニー ワールド フォトグラフィー アワードの一般公募部門に応募した日本人の中から選ばれる、ナショナルアワード(日本部門賞)の審査員を務めています。
本アワードの授賞式や受賞作品展はイギリスのロンドンで開かれ、毎年5月に多くの写真家が歴史的建造物であるサマセットハウスに集結しますが、審査員のハービー・山口氏にとっても、このロンドンの地は、40年前に写真家になる第一歩を踏み出した街でした。
本レポートでは、ハービー・山口氏のロンドン時代やソニー ワールド フォトグラフィー アワードについて語ったトークショーと共に、トーク後に開かれた、写真家たちのポートフォリオレビューの様子もお届けします!
©ハービー・山口
写真をはじめたきっかけ
ハービー・山口(以下、ハービー) 実は最近まで、銀座で写真家人生50年の集大成となる写真展『Almost 50 Years』を開催していました。その時に改めて思ったのは、僕は20歳の時も、50年後の今も、同じテーマで写真を撮っているということ。そのテーマは、『希望』です。50年前と今とでは、時代も自分も変わっていますが、それでもテーマはずっと変わっていません。
ハービー いま、写真はさまざまです。ドキュメンタリー、アート、スポーツ。いろいろありますが、どんな写真、どんなスタイルでも人の心をポジティブにする力があれば、世の中に存在する価値がある。人々の心をポジティブにするのがひとつキーワードだと、私は思います。
そんな風に、自身の作品テーマから語りはじめたハービー氏。写真家として第一線で活躍し続けていますが、幼少時代から写真家になるまでは、順風満帆な人生ではありませんでした。
ハービー 私は生まれて2か月でカリエスという病気にかかり、10数年間コルセットをつけて学校に行っていました。体育の授業に出られたことはなかったし、クラスでもいじめられていました。孤独だったのです。
そんなハービー少年は、小学6年生の時に近所の中学生が演奏するブラスバンドの音色を訊き、心が躍る体験をしました。孤独だった少年は中学でブラスバンド部に入り、フルートを担当。ちなみに、ハービー・山口という名前は、ジャズフルート奏者のハービー・マンから来ているそう。
しかし、体が弱かったハービー少年は、楽器演奏を続けることはできず、ブラスバンド部から写真部へ。
写真部だったら、自分の体調の良いときに、一人で撮ることができる。それに、いじめていたクラスメイトも、カメラを向けるとニコッと笑ったそうです。
転機となったのは、大学卒業後。新聞社や放送局など、カメラマンを必要とする企業に就職活動しましたが、すべて不合格。音楽が好きだったハービー氏は、ロンドンへ旅立つことにしました。
忘れられない2人のミュージシャン
ハービー ビザで滞在できる半年間のつもりで行きました。半年後、撮った写真をいろんなところに持ち込みに行けば、フリーランスになれるかな…と思って。でも結局一度も帰らず、10年もいたんです。帰って来たときは、33歳でした。
ロンドンで活動しているなかで出会った、忘れられない2人のミュージシャンがいる。偶然出会ったにしては信じられないほどの大物ミュージシャンだ。ひとりは、元サンタナのドラマーのマイケルシュリンプ。
ハービー 彼はサンタナをやめて、新しいバンドでイギリスに来ていました。そこで僕は、「なんでサンタナをやめたんですか」と訊いてみたんです。
サンタナにいれば、お金も名誉もある。何千万枚もレコードを売っているビックなバンドですから。そうしたら、彼は言いました。
「人生は、お金と名誉だけじゃないよ。自分の好きなことで、どれだけ冒険できるかが人生だ。君はカメラでそれをしようとしているんでしょう? 僕も君も同じ人生だよ」と。
レコードのクレジットでしか知らなかった憧れのミュージシャンが目の前にいて、「僕も君も一緒」と言ってくれた。すごく勇気づけられました。
もう一人は、1970年の後半にベイカー・ストリート駅のホームで偶然出会った、パンクロックのヒーロー、クラッシュのジョー・ストラマーだ。
ハービー ジョーを見かけて、思わず僕は駆け寄りました。「ジョーさんじゃないですか」と。彼は「そうだよ」。「写真を撮っていいでしょうか」。「いいよ、どうぞ」。
ホームで3枚撮り、電車が来たので、一緒に乗車。最後のカットは、駅に止まり、ホームの光がちょうど車内に差し込んだとき。ジョーが電車を下りるためにドアの方へ行き、最後、振り返ってこう言いました。「君ね、言っておくけど、撮りたいものはみんな撮れ。それがパンクだぞ」と。
ハービー パンクってそういうこと。なぜ、撮りたいのに我慢しているのか。かかって来いって。つまり、彼なりに僕を評価してくれたのでしょう。こいつにはなにか一言いい残したいと思ってくれたんだと思う。
10年異国で一人ぼっちで暮らすには、強い意志がないとできない。日本人を知っている人は少ない、そういう時代でした。
ひとつ、みなさんに言いたいことがあります。みんな、「もっといい大学だったら」とか、「もっと髪の毛がストレートだったら」とか、いろんなコンプレックスを持っていると思うのですが、そのままでいいんです。
私は身長が162センチですが、もし僕がジョーより身長が高かったら、彼は構えて、写真が撮れなかったかもしれない。100%満足している人はいないんですよ。
ロンドンでたくさんの挑戦をしたハービーさん。日本で活動している今も、まだまだ挑戦中です。ほんの数年前も、ある書店でフランス人の女性を紹介され、その場で写真を見せると、その女性のパリのギャラリーで個展を開催することが決まりました。さらにその展示がロンドンでの開催にもつながったそうです。
ハービー 思わぬ展開が絶対あるんです。自分が心から撮りたいものを、自分の心の写し絵として撮っていれば。流行でかき消されないもの。それを一人ひとりの責任で、撮ってもらいたいですね。
ハービー・山口氏が審査員を務める
ソニー ワールド フォトグラフィー アワードって?
ロンドン時代のお話を伺ったところで、今度はナビゲーターの速水惟広氏と一緒に、ハービーさんが審査員を務めるソニー ワールド フォトグラフィー アワードについて語っていただきました。
ハービー ソニー ワールド フォトグラフィー アワードは文字通りワールドワイドな賞。写真を見てもらえる人の数が違います。2年前に私が日本人部門賞で選んだホタルの群生を撮った野見山桂さんは、環境汚染が生物に与える影響の研究を行う、愛媛大学の准教授。2016年度に、一般公募部門の最優秀賞にも選ばれました。その後、世界中のからものすごい数の問い合わせが来たそうです。その専門分野に愛情や知識がある。そういう人が撮っていると強いですよね。
© Kei Nomiyama, Japan, Open Photographer of the Year, 2016 Sony World Photography Awards
速水 そうですね。カテゴリが建築、ナチュラルワールド、または風景、静物、ストリートフォト、ポートレイトなど10あるので、自分の好きな分野で出せるのが、ひとつのポイントだと思います。
ハービー 誰にも自分のルーツにもとづいた写真があると思います。田舎の風景や都会の雑踏など、自分の心に引っ掛かるものが写すのに値するし、長続きする。自分にしか撮れない、誰かのまねではない写真を撮って出してほしいですね。
速水 授賞式には世界中から600名以上の写真のプロフェッショナルが来英し、その年の1位が決まる瞬間を見守ります。受賞者のメディア露出は1万件を超えている。他にこのようなコンテストはないと思います。ハービーさんはどのような点に注目して審査されていますか?
ハービー 私が審査で注目するのは主に3つ。テーマ性、アプローチ、そして作品としての完成度。撮りつくされたテーマであっても、バリエーションはいくつもある。たとえば、絵や音楽は写真より何十倍も歴史がありますが、いまだにみんな、自分らしさとは何だろうと、問い続けている。それに比べて、写真は歴史が短い。もっともっとやれることがあると思います。
海外に受けようと思ってつくる必要はないと思います。たとえば、浮世絵って、外国人に受けようと思って作られたものではない。フランスでは「こんな描き方があったのか」と、みんな真似しました。パリやロンドンの人たちに「こんな写真を撮りたい!」と思ってもらえるようなものに期待したいですね。
速水 そうですね! では、ここで簡単にソニー ワールド フォトグラフィー アワードについてご説明させていただきます。
ソニー ワールド フォトグラフィー アワードとは?
速水 今回が第12回となるソニー ワールド フォトグラフィー アワードは、プロフェッショナル部門、一般公募部門、ユース部門、学生部門の4部門があり、それぞれのキャリアステージに合わせた応募ができるほか、プロフェッショナル部門、一般公募部門は各10カテゴリーの多彩なジャンルで応募が可能。より作風に合った評価が期待できます。
速水 そして入賞すると、ロンドンでの授賞式への参加やサマセットハウスでの写真展など、世界規模で写真関係者と交流できるチャンスが用意されています。また、これまで偉大な功績を残した写真家には特別功労賞が贈られその栄誉を称えます。
このようにソニー ワールド フォトグラフィー アワードは 『写真文化の継続的な発展に寄与する』という目的に向かって、広く写真家のみなさんを支援していく賞なのです。
さらに、一般公募部門の中には日本人部門賞があり、ハービーさんが審査員を務められます。一般公募部門、プロフェッショナル部門合わせて、賞金は総額3万ドル。日本円でいうと、なんと300万円以上!
実は以前、御苗場でレビュアー賞を受賞した塩原真澄さんが、昨年一般公募部門のショートリストにノミネートされました。
© Masumi Shiohara, Japan, Shortlist, Open, Still Life (Open competition), 2018 Sony World Photography Awards
速水 さらに、2008年、最初の関西御苗場に出展された、森星象さんもプロフェッショナル部門のスティルライフでノミネートされています。10年後に世界で認められるなんて、すごいですよね! 最後に、ハービーさんの方から、みなさんに応援メッセージをいただけますか?
ハービー 自分の個性に自信と誇りを持つこと。そのために切磋琢磨して、自分に妥協しない。これが今自分にとって最強のものだと思って、作ることですね。日本人の個性も、海外にどんどんアピールしたいじゃないですか。独自の写真文化があるんだから、自信と誇りをもって、浮世絵のように海外に衝撃を与えたいですよね。
オープンポートフォリオレビューを開催!
トークショー後には、関西圏を中心とした写真家32名と、ギャラリスト4名、CMS速水でオープンポートフォリオレビューが開催されました。2時間、3時間たっても終わらない、白熱したポートフォリオレビューの様子をご紹介します!
ソニー ワールド フォトグラフィー アワードのプロフェッショナル部門は5点以上10点以内の組み写真で応募、また一般公募部門は1枚の写真で応募します。今回のオープンポートフォリオレビューでは、レビュアーが参加者のブックを観ながら、どちらの部門での応募がお勧めか、アドバイスをしていきます。
京都でgallery mainを主宰しながら、京都国際写真祭のKG+にも携わる中澤 有基さん(左)。笑顔でコミュニケーションをとりながら、参加者の作品についてアドバイスされていました。
大阪でギャラリー・アビィを主宰する吹雪大樹さん(左)。ひとりひとり熱心に作品を見てくださっています。
神戸を拠点に精力的に活動されているKOBE819GALLERYの野元大意さん。レビューを楽しんでいらっしゃいました。
写真を基軸にしたコンテンポラリーアートを扱うThe Third Gallery Ayaの玉置慎輔さん(右)。ふだん世界で活躍する写真家と仕事をしている玉置さんの視点でのアドバイスはためになります。
T3 PHOTO FESTIVAL TOKYOのファウンダーを務めるCMSの速水惟広(右)。参加者の皆さんに、厳しくも為になるアドバイスを投げかけます。
参加者の皆さんもレビュアーとの会話を楽しみ、「勉強になりました!」と多くの方が語ってくれました。
田中紘子さん
(左)Ichio Usuiさん(右)Chika Usuiさん
Keiさん
ソニーブースの前では、トークを終えたハービー・山口氏も長い間参加者の作品にアドバイスをしてくださっていました。
ポートフォリオレビューは白熱し、予定時間を大幅に過ぎて終了。参加者の皆さんだけでなく、レビュアーを務めたギャラリストの皆さんも、「面白い作家がいましたね!」と語り、とても充実した時間となりました。
さて、この参加者の中から、ソニー ワールド フォトグラフィー アワード2019で受賞する作家が生まれるのでしょうか⁉ 来年、皆さんからの報告がとても楽しみです。
ソニー ワールド フォトグラフィー アワード2019は、現在、作品募集しています。一般公募部門の締め切りは2019年1月4日(金)22:00まで、プロフェッショナル部門の締め切りは2019年1月11日(金)22:00まで。
Webで簡単に応募できます。この記事を読んだ皆さんもぜひチャレンジしてみてくださいね!
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