静かなる革命 インベカヲリ★という星型多面体


文筆家、ジャーナリストとしてのインベカヲリ★

 多面体としてのインベカヲリ★を見据えるとき、まず文筆家あるいはジャーナリストとしての面を見てみたい。21才から付けている大学ノートから分解しようと試みる。インベにとって書くことはどんな意味を持つのだろうか?
 「私もともと文章が実は先で、その後写真を撮り始めたんです」 。

 インベはこれまで、文筆家としても仕事をしてきている。書籍化されたものだけでも、2006年『取り扱い注意な女たち』(出町つかさとの共著)、2013年『ノーモア立川明日香』(小川善照との共著)、2017年『のらねこ風俗嬢』(忌部カヲリ名義)などがある。
 文章を書くことに改めて向き合ったこの数ヶ月。これまでと違う困難と変わらない刺激を受けているという。

 「言葉ってやっぱり難しい。とくに私がやっているのはノンフィクションなんで、写真より、正確に慎重に書かないといけない。写真のような良い意味で受け取り方に幅がある表現とは違い、見え方が具体的」「でも、やってることは同じ。人を見るという意味でやってることは常に同じ。それが写真になるか文章になるかの違いだけで」。

目指しているのは、本人も気づいていないようなものを拾い上げること

 では、インタビュアーとしてのインベは取材相手にどんな姿勢で立つのだろうか?
 「私は相手の人生について聞く時、経験や出来事ではなく、そこから生まれた思考や感情、そしてそのことが生んだストーリーについてフォーカスしていくようにしています」
「目指しているのは、本人も気づいていないようなものを拾い上げること。人間には意識と無意識があるけど、無意識で何を考えているかということこまでたどり着きたいと思っています」
「面白がることが出来るポイントが見つかるとイメージが浮かび、膨らませることが出来る。キーワードはすぐ浮かぶこともあるし、あとでメモを読み返しながら思いつくこともあります」。

 インタビュアーとしての顔に、カウンセラーとしての顔が重なって見えた。自身も語っているように、取材で相手の相談に乗ることは決してない。この場合のカウンセラーとは、傾聴と適切な問いにより、本人の気づきを促す態度のことである。それは彼女に深く影響を与えた本をたどることで裏づけられる。

 「一番影響を受けたのは、心理学や精神医療の本ですね。高校ぐらいから読み始めたんですけど、人の心を知りたいという欲求が強かったんです。学校で先生や同級生が考えてることもわからないし、なんで私だけこんなにも”ふつう”からずれているのかもわからないし。人の心を知るということは、私が生き残っていくために必要だったもの。どうやったら自分はこの世界で生きていけるのか。その答えを求めて人間というものを知ろうと思った。それが全てですね」。

 なかでも強く印象に残っているのは、虐待や依存症、アダルトチルドレンなどについての著書で知られる、精神科医の斎藤学だった。
 「斎藤学先生の書いた本は深く影響を受けてます。その理論を読んだ時に、自分がしていることはこういうことかと納得した覚えがあります」
「取材の会話の中で本人が言語化出来ていない部分をいかに見るかということを大切にしているんですけど、私が言葉を添えることで本人がだんだん自分が何を考えているか気づいていく時があるんです。
『人間はこういうふうに作られていくのか』ということに自分自身も気づかされる対話もあって、それは彼の心理療法のひとつに影響を受けて見えてきたものだとも感じています」。

 カウンセラーとしてのインベの姿勢は彼女の生育環境にもつながっている。そしてそこに彼女の創作への強いエネルギーの源のひとつを見つけることが出来る。
 「保守的で抑圧的な家庭。許された外とつながる唯一の窓である学校社会にも全く馴染めず、逃げ場がない。でもそんな自分がおかしい。”ふつうの女の子”、つまり”理想の猫”になれない自分がおかしい。”理想の猫”であるべきだという洗脳を抜け出そうとしても難しい」
「ただ相手の状況がよく分かったとしても、アドバイスをしたり、問題解決しようとしたりは決してしない。その人そのままを受け入れることを大切にします」
「ネガティブな話、たとえば自殺未遂などの話をされても普通に受け入れる。事実として受け止める、否定はけしてしない」
「そういう人間がこの世の中に居て、自分の目の前にいるということを受け入れる。その大前提を決して崩さない」
「結局、作家は自分のトラウマを表現する生き物だと思っています」。