蜂の目をもて!旅の写真を作品にするプロのヒント集
まだ見ぬ風景や出合いを求めて、旅に出る。
そこで出会った被写体を写真に残して、作品にしたいと思ったことはありませんか?
でも、旅先での写真はなんとなく撮ると、思い出写真になりがち。
みんなと違う自分らしい写真を撮りたい!という方のために、6人の写真家が大事にしている旅写真の秘訣をご紹介します。
1.熊切大輔の場合 「写真はコミュニケーションから」
2.山口規子の場合 「蜂の目でまちを見よう」
3.上田晃司の場合 「欲張らずに“切る”勇気を」
4.松本友希の場合 「“しめしめ感”を意識する」
5.藤原慶の場合 「テーマを決めておこう」
6.コムロミホの場合 「自分が感動した瞬間を大切に」
1.熊切大輔の場合
写真はコミュニケーションから
旅先では、風景だけではなくそこで生活している人々も残したい。まちを歩く人、お店で働く人、人の力を借りて画を作ることで、より物語を想像させる1枚をつくることができます。
一般の方の自然な表情を引き出すために大切なのは、コミュニケーション。すぐにレンズを向けるのではなく、まずは挨拶や世間話をして、相手との距離を縮めていきましょう。話を楽しみながら、表情や動きを観察するのがポイントです。
興味を持って相手を眺めることで、「この人は喋る時の表情がいいな」「笑っているよりも寂しそうな顔の方がまちの雰囲気に合っている」などの発見があります。色やテイストは後でいくらでも変えることができますが、表情はその場、その瞬間でしか捉えられないもの。会話から入り、顔の動き方や仕草などを色々な向きから観察しながら、相手の一番魅力的な表情を引き出すことができれば、あなたにしか撮れない1枚が撮れるはずです。
瞬間的に撮ることの多いスナップですが、この場所で撮りたい!と明確なイメージがある場合は、条件が揃うまで粘って撮影することも。同じ場所を、1時間後、2時間後、あるいは日程を変えて何度も周ることもあります。時間の経過とともに光の当たり方が変化したり、人が多く訪れるタイミングがあったりと、違ったまちの景色に出合うことができますよ。
東京工芸大学を卒業後、日刊ゲンダイ写真部を経てフリーランスの写真家として独立。ドキュメンタリー・ポートレート・食・舞台など「人」が生み出す瞬間・空間・物を対象に撮影する。スナップで街と人を切り撮った作品表現を主として2018年写真集『刹那 東京で』発売と共に写真展『刹那 東京で』を開催。「東京美人景」「東京動物園-アンリアルな動物たちの生態」の三部作で東京の今を撮り続けている。公益社団法人日本写真家協会理事。
2.山口規子の場合
蜂の目で街を見よう
美しい風景や独特な建物には視線がいきがち。確かにそれも旅先ならではの写真ですが、もっと小さなものに目を向けてみることも大切です。組写真の中に、そのような細部に焦点を当てたものが入ると、リズムが生まれて、ぐっと作品の完成度は高まります。
自分が暮らしている日常とは違う場所に行く。そうすると、違うお店があり、そのまちならではの価値観のものが売っていたりします。上の写真は、下田の雑貨店で撮影したもの。下田は史跡や伝統的な建築の残る、歴史情緒溢れるまちです。だからこそ、懐かしいキャラクターがモチーフになった古いコップが大切に保管されていました。
小さいものを見つける時には、一般的な目線でまちを眺めるのではなく、自分が蜂になったような感覚で歩いてみましょう。鍵穴や、錆びたポストの上に貼られたシールなど、風景の細かい部分に目を向けてみると面白い場面が周囲にいくつもあることに気づくと思います。
ドラマチックな1枚に仕上げるためには、まずは自分がその土地の“空気”を感じなければいけません。カメラの機能に捉われたり、設定がわからないと焦らずに、一度深呼吸してみましょう。光や風や音、目の前に広がる風景を五感を使って味わえば、その場所が持つ魅力や雰囲気を掴むことができます。
栃木県生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。文藝春秋写真部を経て独立。女性誌や旅行誌を中心に活動。透明感のある独特な画面構成に定評がある。「イスタンブールの男」で第2回東京国際写真ビエンナーレ入選、「路上の芸人たち」で第16回日本雑誌写真記者会賞受賞。近著に旅と写真の楽しみ方を綴った「トルタビ~旅して撮って恋をして♫~」や柳行李職人を撮り続けた写真集「柳行李」など。料理や暮らしに関する撮影書籍も多数。旅好き。猫好き。チョコ好き。公益社団法人日本写真家協会理事。
3.上田晃司の場合
欲張らずに“切る”勇気を
目に映るものがすべて魅力的に見えるような旅先では、全部を入れたい!と欲張ってしまう人も多いかもしれません。でも、広く漠然と撮っただけでは、散漫な写真になってしまいます。そんな時は、自分が何を撮りたいのか主題を見つけること。美しいと思った部分や、感動した部分にポイントを絞ってみましょう。
そして、その主題を際立たせるためには、時には大胆に切りとることも重要です。上の写真では、空を主題として、島を副題に。空の広がりと雲の美しさを表現するために、左側に大きな空間をあけ、あえて島は途中で切りとりました。写真にその場所のすべてが写っている必要はありません。画面に写る要素を減らして、本当に見せたいものに注目させる。思い切ってどこか1つにフォーカスすることで、よりその時の感情を見る人に伝えることができます。
みんなと違う1枚を撮りたい方のためにお勧めなのが、NDフィルター。白飛びしてしまうような明るさでも、光の量を抑え、シャッタースピードを遅くすることができます。NDフィルターをつけると、普段は見ることのできない時間の流れを写真に収めることが可能に。目に映る景色とは違う幻想的な世界が表現できるので、より印象に残る作品がつくれると思いますよ。
米国サンフランシスコに留学し、写真と映像を学び、CMやドキュメンタリーを撮影。帰国後、写真家塙真一氏のアシスタントを経て、フォトグラファー、映像作家として活動開始。新しい技術をいち早く取り入れ、写真や映像表現に活かしている。2014年頃からはドローンを取り入れた撮影も行っている。現在は、雑誌、広告を中心に活動し、ライフワークとして世界中の街や風景を撮影している。講演や執筆活動も行っている。ニコンカレッジ講師、Lumixフォトスクール講師、Profotoオフィシャルトレーナー、Hasselbladアンバサダー 2015。
4.松本友希の場合
“しめしめ感”を意識する
旅や観光名所で写真を撮る時には、「しめしめ感」を意識することをお勧めしています。「しめしめ感」とは、このシーンは私だけが見つけた!という感覚のこと。被写体をどこから見たら自分だけの視点になるか考えながら、みんなが見ているところ以外に面白い部分がないかを探してみましょう。
コツは、周囲にアンテナを張って足で動くこと。1度撮っただけで満足せずに、もっと疑う。今撮った瞬間、角度、構図よりもいいところがあるかもしれないと考えて動いてみると、最初は見えなかったポイントに気づくことがあります。
写真は、下田で撮影したもの。木々で囲まれた丸い隙間から、遠くの島を覗き込むように撮りました。ずっとこの場所にいると、海賊船が通ることを発見。下田独特のモチーフを入れ込むために、構図を決めて待っていました。スナップは直感的に撮っていくスピード感の面白さもありますが、周囲を観察し工夫をしていくことも大切。その場の感覚に加えて少しの工夫をこらしていくことが、「しめしめ感」の写真に繋がっていくと思います。
主役となる被写体を決めたら、次に考えたいのは背景。作品の世界観は背景によって変わるので、主役だけでなくその周辺をどう見せるのか考えなければなりません。切り取り方やボカし具合など、背景が変わるだけで写真の印象が変わり、自分でも気づかなかった町の表情が見えてくるかもしれません。思い込みをはずし、同じシーンでも色々撮ってみた中から、これだ!と思うカットを選んでみましょう。
旅行会社勤務を経て写真の道へ。2000年に日本写真芸術専門学校報道芸術科卒業。2007年に写真雑誌「PHaT PHOTO」の契約作家となり、2009年からは「PHaT PHOTO」写真教室での講師も務めている。雑誌誌面の企画撮影や広告媒体への作品提供など多数。 撮影会やワークショップなどの講師でも活動中。自身の作品では、主に街中や日常に潜む小さな世界を撮り続けている。
5.藤原慶の場合
テーマを決めておこう
旅の写真を作品にしようと思ったら、現地に行ってから何を撮ろうかと探すのは少し遅い。より写真を楽しむためには、自分が撮りたい「テーマ」をはじめに決めておくことが大切です。それは、難しいものである必要はありません。たとえば、笑顔をキーワードに撮ろう、色を見つけようなど、単純なものでも大丈夫。
漠然と何も考えず現場に挑むと、面白い瞬間を何枚も撮ったとしても、トータルで見たら何を言いたいのかわからなくなってしまうことも。でも、予めテーマを定めておけば、自分の撮りたいものが自然と見えてきて、メッセージもより強くなるはずです。ねらう部分が絞られれば、シャッターチャンスを逃すこともありません。
10人いれば、10人撮りたいものは違うもの。テーマは、たとえ写真の先生でも教えることはできません。あまり頭を固くしすぎずに、今回の旅では何を探してみようか1度考えてみてください。
色々なメディアで取り上げられているような観光名所の場合は、こう撮らなければいけないという正解を考えてしまいがち。でも、写真に正解はありません。今まで見たイメージに近づけるための画作りではなく、自分がその場所を訪れて心が反応したものを自由に切りとってみましょう。
カメラとバックパックを持って日本放浪の旅に出る。各地を周りながら撮影した写真を路上で販売し、生き延びる生活を続ける。シンプルながらも生きることへ直結したこの経験が、今の大きな原動力としての糧となっている。人物の撮影を主に行い、被写体の自然な表情を撮ることを心がけている。雑誌、広告など様々な媒体で撮影を行う。
6.コムロミホの場合
自分が感動した瞬間を大切に
この写真は、車で下田へ行き、山道を登りつめたところでパーッと広がる海の風景を見つけて撮影した1枚です。日常を忘れてしまうような解放感のある景色に感動して撮影しました。旅先で写真を撮る際には、まず「感動すること」が大切。それから、撮り方を考えていきましょう。
今回撮影した写真のポイントは2つ。ひとつは、広々とした海を切りとるために、広角レンズをチョイスしたこと。広角レンズは遠近感が出るので、手前の被写体が大きく写ります。風景を撮るときはつい遠景だけを気にしがちですが、奥と手前を意識して、切りとるようにしましょう。手前の被写体を意識することで、より自分が感動した視点を、伝えることができます。この場所では、綺麗なピンク色の花を見つけたので、この花を意識して撮影しました。
もうひとつは、クリエイティブピクチャーコントロールの「トイ」を使って撮影したこと。花のピンクがより引き立つ写真になりました。風景を撮る際には、ピクチャーコントロールシステムの「風景」を選んで撮影する人が多いかもしれませんが、旅先で自分が感じた印象に合う、効果を選んで撮影するのもお勧めですよ。
旅先で気に入った場所を見つけたら、時間帯を変えて訪れてみましょう。朝、昼、夕、夜と足を運べば、景色の見え方が全然違います。先日リスボンを訪れたときも、気になるスポットがあったので、人の多い日中だけでなく、朝の4時に起きて訪れてみました。すると、誰もいない街の風景を撮ることができたんです。諦めずに粘って撮影すると、思いがけない1枚が撮れるはずです。
文化服装学院でファッションを学び、ファッションの道へ。撮影現場でカメラに触れるうちにフォトグラファーを志すことを決意。アシスタントを経て、現在は広告や雑誌等で撮影をする一方、ライフワークでは海外、国内で街スナップを撮り歩いている。またカメラ誌等での執筆やカメラ講師も行っている。
いかがでしたか?
今回ご紹介した写真家たちが講師となって、旅と作品制作、そしてコンテストを1度に体験できるイベント「TRIP SHOT CONTEST 2019」が9月28日(土)29日(日)の2日間、伊豆・下田で開催されます。
イベントでは、プロが実際に撮影で使っているフルサイズ一眼Nikon Z 7・Z 6やレンズを参加者全員にお貸出し。直接アドバイスを受けながら撮影を楽しむことができます。
本記事で学んだ旅写真のコツを活かすチャンス!
お気軽にご参加くださいね。