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現代アイドル写真論


Vol.3 アイドル写真における“生”の魅惑


現場はなにも「アイドルがいる」場所だけではない。「アイドルのいない」現場、その筆頭がアイドルのブロマイド・生写真だ。デジタル全盛の時代に紙の写真などすでに廃れたかと思いきや、むしろ現在のほうが多様性に富んでいる。
日本におけるブロマイドの歴史は古く、大正期に神田良古堂や浅草マルベル堂のもとで国内外の映画スターや歌手が人気を博し、戦後はテレビ文化の隆盛でタレントやアイドルが脚光を浴びた。当時の写真を見ると、モデルはカメラを真正面から見据え、バストショットが多い。映画監督の大島渚がブロマイド人気をスターの私有と捉えたように、私的空間でアイドルを堪能したいというファンの希望は大いに満たされた。
やがてブロマイドの人気は落ち込み、急激に勢いを伸ばしはじめたのが、アイドルのプライベートやイベントを隠し撮りした生写真だ。一説によれば、昭和58年頃から原宿の露店で売られはじめたという(芸能人の暴露記事をひとつの売りにする写真週刊誌の登場と同時期だ)。生写真の「生」は元来、印刷物との区別で印画紙を指していたが、この「生」は実に多様な意味合いを含んでいる。プライベートの生々しさ、撮れたての生モノ、生唾もののいかがわしさ。「アイドルを私的空間に」から「アイドルの私的空間に」へ。ブロマイドのような「加工物」ではなく、生身の姿を拝みたいというファンの願望が見え隠れする。
そして現在、アイドルの公式ショップに並ぶ写真にはこうした生写真的な要素が目立つ。たとえば、ジャニーズショップには基本的にPVやコンサートグッズの撮影オフショットが並び、AKBグループやハロプロの公式写真もブロマイド的な写真のほかにオフショットも織り交ぜている。ブロマイドのような決め写真を受動的に見るのではなく、オフショットのなかから能動的に自分の好きな1枚を選ぶことがファンの楽しみのひとつにもなっている。それは「選ぶ・育てる」アイドル時代の新しい私有のかたちと言えるかもしれない。

調文明 / しらべぶんめい
11980年東京生まれ。写真史/写真批評。日本女子大学/京都造形芸術大学/東京綜合写真専門学校非常勤講師。『アサヒカメラ』『日本カメラ』などで執筆中。

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