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現代アイドル写真論


Vol.5 写真と活字が育むアイドルの親近感


アイドルといえばグループアイドルを指す昨今。だが、いまから10年ほど前であれば、アイドルといえばグラビアアイドルを真っ先に思い浮かべる人も多かったのではないか。民放局のバラエティ番組に優香やMEGUMI、若槻千夏といったグラビア(出身の)アイドルが、連日のように登場していた。
「グラビア」とはもともと印刷技法を指す言葉で、高品質かつ大量に印刷できるため、雑誌の写真ページに使われることが多かった。グラビアとアイドルの接点は、雑誌の黄金時代と呼ばれた1970年代にまで遡る。雑誌『GORO』での篠山紀信撮影による「激写」シリーズが、グラビアと親近感漂う女の子=アイドルを結びつけたのである。そして、1990年代には元イエローキャブ社長の野田義治がある手法でグラビアアイドルという呼称を定着させる。「水着姿でデビューさせ、段々と服を着させていく」というスタイルだ。その後、「親近感+水着」という形式は一般的なものとなる。グラビア写真に対する「関係性のリアル」(濱野智史)や「童貞をこじらせる」(みうらじゅん)といった表現は、「激写」以来定番となった親近感にもとづくものと言える。
その親近感を醸成させる一助となっているのが、グラビア写真に添えられる活字である。とりわけヤングジャンプなどの青年コミック誌のグラビアに多く、デートや旅行といった設定を簡略に示しつつ、アイドル目線や同伴者(≒読者)目線の文章が入る。文章の内容よりも、むしろその文章をアイドルと読者が擬似的であれ共有し合うことが、親近感の源となる。活字の使い方はほかにも、グラマーなヒップラインに沿って、文章が弧を描くように配置される際には、一種の視線誘導の役目も果たす。
写真と活字の共演。アイドルの自撮りや手書き文字とも異なる絶妙な距離感がそこから生まれる。距離がゼロになる(=握手する)経験に負けず劣らず、距離を楽しむ経験もまた現代アイドル文化を構成する大きな要素に違いない。

調文明 / しらべぶんめい
11980年東京生まれ。写真史/写真批評。日本女子大学/京都造形芸術大学/東京綜合写真専門学校非常勤講師。『アサヒカメラ』『日本カメラ』などで執筆中。

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