「ニューヨークのイエスとノーの間にある無数のグレーをとらえたい」 |テラウチマサトインタビュー
NYと聞いて、どんな風景を思い浮かべますか?
颯爽と歩く人々、遠くまで続く高層ビル。きらきら輝くネオン。
行くのは少しだけ勇気がいるけど、誰でも1度は訪れてみたい憧れの街。
『NY 夢の距離』。
この写真集が切り取るのは、みんなの想像とは違う、ほっと息をつくような温かく素朴なNYの風景です。
ここで過ごしてきたわけではないのに、どこか懐かしい。
そんな感覚が味わえるこの写真集の魅力を、著者テラウチマサトさんに伺いました。
――タイトルにつけられた「夢の距離」という言葉には、どんな意味が込められているんでしょうか。
テラウチ この写真集の3割はマンハッタン、7割はマンハッタン以外のNY市の街で撮っています。日本人がNYと聞いてなんとなく想像するのは、マンハッタンだと思うのですが、マンハッタン以外に住んでいる方も当然多くいます。それは東京の人がみんな銀座に住んでいるわけではないのと同じですね。
ある時、ブルックリンに住む僕の友人が、「いつか自分もあのマンハッタンに住んでみたい」と言っていたんです。NYにいながら、マンハッタンに憧れている。その言葉を聞いて、対岸のブルックリンから、あるいは他のエリアから摩天楼のビルを眺めて、いずれあそこに住んでビジネスを成功させたいと思っている人が多いんだと気づいて、NYに憧れる人の思いを込めて『NY 夢の距離』というタイトルをつけました。
――夢見る人々の目線で撮られていると。
テラウチ そうです。NYは世界中から我こそはという人が集まってくる街だけれど、実はNYに住んでいる人たちもマンハッタンで成功したいと夢見ている感じがして。このタイトルにすれば、写真を見た人が自分も同じようにチャレンジしているような気持ちになれるんじゃないかと思ったんです。
――この写真集でNYのどんな部分を伝えたいと思われたんですか?
テラウチ 僕は1988年からずっとNYに通い続けているんですが、僕が初めて行った時、タイムズスクエアの辺りは、ギャングと娼婦とゴミの街だったんですよ。NYは都会で、冷たくて意地悪な街だと感じる人も多いような少し怖い場所だったんです。
でも、「9.11」以来、NYはとても温かくて、ハートフルな街に変わっていた。友人に聞いたら、あの事件の後、みんな教会に集まって泣いたそうなんです。そして、その時にこんな風にバラバラでいちゃだめだ、みんなで一緒になってNYをいい街にしていこうと、それぞれ考えていたと。3000人以上の人が亡くなったけれど、生き残った人の努力によって、人々の結びつきは強まり、ゴミもなくなって、街が綺麗になったんですね。
僕は、その前向きに変化したNYに感動して、それをこの写真集で表現したいと思ったんです。
――確かにみんな朗らかな表情をしていて、写っている道路もきれいでした。約30年通われてきたからこそ、2001年を契機にして変化したNYの姿をとらえることができたんですね。
テラウチ 今回はその魅力をできるだけ多くみなさんに伝えたいと思って、写真だけではなく、エッセイもいくつか書いています。そこには、NYで出会った人との触れ合いや、あの「9.11」をきっかけにして変化したNYのエピソードも書いたので、読み物としても楽しんでもらえるんじゃないかと思っています。
――NYは都会の冷たいような印象があったんですが、このエピソードの中に登場する人たちは、他人でも家族を迎え入れてくれるような雰囲気がありましたね。モノクロの風合いも温かみがありました。
テラウチ モノクロにしたことで、みんなが想像する洗練されたイメージとは違う、もっと田舎染みた温かさのあるNYを見せることができたかなと思います。
この写真集に収録されている写真は、主に2017年に撮影したものですが、それをモノクロにすることで、これは「本当に今のNYなの?」と読者に思ってもらえるかなと。想像との違和感がある方がインパクトがあって面白いんじゃないかと思って、モノクロにしました。
――写真集を読み進めていくと、モノクロの写真の中に、最後に2点だけカラーの写真がありますよね。それはなにか理由があったんですか?
テラウチ デザイナーと組んで写真集をつくるときは、自分の意図通りつくるということを避けるようにしているんです。自分の頭の中にないアイディアを期待してその道のプロとやってみたいと思っているので、この写真集も、信頼できるデザイナーの新藤岳史さんに託しました。
彼が全部をモノクロにして、最後に1枚だけカラー写真を入れる選択をしてくれたんです。でも、今回初めてわがままを言って、もう1枚だけカラーを入れてもらいました。
――セントラルパークの写真ですね。
テラウチ 昔のNYは、イエスかノーかはっきりしなさいという感じだったんですが、先ほども言ったように2001年を契機に、人の多様性を認めるようになってきているんですね。もう少し言うと、イエスとノーの間にある、無数のグレーの部分を認めるようになってきたように感じるんですよ。
最後に入れたセントラルパークの写真は、赤い紅葉が散って、秋が終わり冬になろうとしている、季節の間の風景を撮ったものです。こじつけかもしれないんですが、この写真で、季節の狭間、その移ろいをおさえることができた気がして、どうしても入れて欲しいとお願いしました。ちょうどイエスとノーの間と同じような感覚で。
明確に区分できないものを受容するようになった、新たなNY像を象徴する1枚になったかなと思います。
――長い間通われてきて、そこまでNYに惹かれる理由はなんでしょうか。
テラウチ 最初は、まだ僕も若くて純粋に世界で戦っている人たちの現場で一緒に戦ってみたいという気持ちで通い始めたんです。そのうち友人や、仕事相手も増えてきて。何度も通って、カフェでご飯を食べていると、昔からここで育ってきたように感じるくらい、みんなが親しく声をかけてくれるんですよ。
僕は富山県生まれなんですが、現在のNYの街で故郷の雰囲気や、自分が忘れていた人のやさしさを思い出すんですね。街の人たちは、いつも「どこから来たの?」とか「今日はなにするの?」と話しかけてきてくれて、田舎にいるみたいな心地よさがある。
もちろん、危険な場面を目の当たりにしたこともあるし、世界のどの街とも同じように100%安全な街ではないけれど、とてもあったかい街ですよ。そこにどうしようもなく惹きつけられるのかもしれませんね。
――この写真集を見ていても、画像検索をして見つかるNYの写真とは違う、穏やかな雰囲気が感じ取れました。遠いNYの写真が、なんだか近いように感じるのは、国が違っても故郷を思わせるからなのかもしれませんね。この写真集と同時に、モノクロとカラーのそれぞれ5枚セットのポストカードもありますが、このセレクトにはどんな意図があるのでしょうか。
テラウチ モノクロのセットは、最近撮ったものなんですが、写真を見た人に「オールドニューヨークなの?」と言われるような写真を集めました。「NY」というキーワードで画像検索をすると、基本的に摩天楼のビル群と公園しか出てこないんですよ。だけどそれは本当のNYとは言い切れないかもしれない。モノクロにしてまるで昔の風景のようなNYが、実は現在のNYであるという面白さを味わってほしいなと思いました。
テラウチ カラーの方は、カメラのモード機能を使ったり、あえて彩度を高めたりして撮っているんですが、NYは色が目立つ街なんですね。そしてポップで力強い。モノクロの写真を見ていると古き良き時代とか懐かしさを感じてほっとするけど、時にアクティブに自ら活動しなきゃいけないと思って、派手な色味のポストカードも同時に出しました。どちらにも全種類メッセージが入っているので、あわせて楽しんでもらいたいです。
――この写真集やポストカードを、どんな方に手に取ってもらいたいと思っていますか?
テラウチ 夢を持っている人ですね。この写真集の写真は、「夢の距離」、つまり夢に挑戦しようとしている人たちの気持ちで撮影したものなので、夢があり、積極的に挑戦したいと考える人には、響く内容になっていると思います。
国が違っても、夢を持って挑戦しようという気持ちは同じです。夢を見るニューヨーカーと同じ思いで、ページをめくってみてほしいです。
今まで見たことのないようなNYの魅力がぎっしり詰まった、この1冊。
ぜひ、あなたの本棚にも。
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今回お話を聞かせていただいたテラウチマサトさんの写真集『NY 夢の距離』とポストカードは、オンラインショップで購入することができます。
数量限定のサイン入り写真集や、ポストカードがついてくる選べる購入プランも。
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また、サイン入り写真集がついてくる講評講座も開催。
テラウチさんが一人一人丁寧に講評するこの講座は、過去参加者にも作品づくりのヒントがもらえるとご好評をいただいています。
優秀作品に選ばれた方は、東京・京橋のT.I.P WHITECUBE Galleryでの展示に加え、本WEBマガジン「PHaT PHOTO」でも記事としてご紹介します。
このインタビューでは話しきれなかった、テラウチさんの写真への熱い思いも聞けるかもしれません。ご興味がある方は、ぜひご参加ください。
【写真家テラウチマサト講評講座2017】
開催日時:2017年10月23日(月)19:00~22:00
会場:東京都中央区京橋3-6-6 エクスアートビル
料金:一般 7,000円/学生 4,000円
PHaT PHOTO写真教室生徒の方/PHaT PHOTOプレミアム読者の方 6,000円
http://peatix.com/event/306074