飯沢耕太郎が選ぶ「時代に残る写真集」Vol.6 ウィリアム・クライン『ニューヨーク』
フランスでファッション写真を中心に活動していたウィリアム・クラインは、1954年に一時、生まれ故郷のニューヨークに戻り、小型カメラで路上スナップを試みた。
それらの写真は、2年後に画期的な写真集『ニューヨーク』として刊行される。従来の写真の美学を覆すスタイルは、多くの写真家たちに衝撃を与え、伝説的な写真集として語り継がれるようになった。
21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー1&2
参加作家:ウィリアム・クライン、石川直樹+森永泰弘、勝又公仁彦、沈 昭良、須藤絢乃、TAKCOM、多和田有希、西野壮平、朴 ミナ、藤原聡志、水島貴大、安田佐智種
会期:開催中~6月10日(日)
時間:10:00~19:00(入場は18:30まで)
住所:東京都港区赤坂9-7-6
ウィリアム・クラインは1926年にニューヨーク・ブルックリンに生まれ、第二次世界大戦後にアメリカ陸軍に入隊してフランスに駐在した。
そのままパリに留まり、最初は抽象画家として、1950年代以降はファッション写真家として活動するようになる。
だがより野心的に、都市の構造を総体的に捉えるような写真シリーズを構想し、1954年に一時アメリカに帰国してニューヨークを撮影し始めた。
その成果は1956年にスイスの Seuil社から写真集『ニューヨーク』として刊行される。
『ニューヨーク』は通称であり、正式なタイトルは『LIFE IS GOOD & GOOD FOR YOU IN NEW YORK;TRANCE WITNESS REVELS』(ニューヨークの生活は君にとって凄くいいよ。
トランス状態の目撃者のどんちゃん騒ぎ)である。このタブロイド判の新聞の見出しのようなタイトルが、写真集全体の気分をよくあらわしている。
最初の「四つの顔」の写真から、読者はさまざまな人種、職業の人々が群れ集うニューヨークの路上を引っ張り回され、まさに魔法がかかったような出来事を目撃することになる。
よく「アレ・ブレ・ボケ」の表現に言及されることが多いが、クラインはそれを巨大都市に渦巻くエネルギーを丸ごと捉えるために意識的に使っている。
ページをめくるたびに思いがけない場面が目のまえにあらわれてくる、飛躍の多い写真構成のスタイルも衝撃的だった。
写真家たちに対する影響力という点においては、『ニューヨーク』を超える写真集は他にないのではないだろうか。
クラインは『ニューヨーク』に続いて、『ローマ』(1958年)、『モスクワ』(1964年)、『東京』(同)の、「都市4部作」を次々に刊行する。
「写真による都市論」のひとつの到達点というべきそれらの写真集は、今なおさまざまな読みとりの可能性を保ち続け、世界中の写真家たちのバイブルとなっている。
その意味で、『ニューヨーク』は現代写真の原点というべき写真集である。
ウィリアム・クライン『ニューヨーク』(Seuil)1956年
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