重要!プリントの選択と額装のポイント|写真「販売」基礎知識 5/12
写真を売ってみたいけれど、何から始めていいかわからない。
急に「作品を売ってほしい」と言われたけれど、値段の付け方やサインの入れ方など知らなくて困った。
そもそも、写真って売れるの?
作品制作を行う写真家やアマチュアの方で、そんな経験をしたり、疑問を持っている人も多いのではないでしょうか。
いつか作品を売ってみたい写真家や、買ってみたいアートファンの方へ。
本記事は、作品販売を仕事にしているギャラリーPOETIC SCAPEのディレクター柿島貴志さんに、写真販売の基礎知識について詳しくご紹介いただく連載です。
※本記事は、Tokyo Institute Of Photography(T.I.P)で開催されていた、ギャラリーPOETIC SCAPEのディレクター柿島貴志さんによる人気講座の内容を一部抜粋してご紹介しています。
柿島貴志/Takashi Kakishima
大学卒業後に渡英。ロンドンBlake Collegeを経て、Kent Institute of Art and Design(現UCA)ビジュアルコミュニケーション・フォトメディア卒。ITやアート関連企業を経て、2007年にアートフォトレーベルphotta-lot、2011年にギャラリーPOETIC SCAPEを設立。現在はPOETIC SCAPEの経営・ディレクションのほか、写真作品の額装ディレクション、他ギャラリーでの展覧会・イベントディレクション、写真系企業へのビジネスコンサルティングなどを行う。
写真「販売」基礎知識 1/12 作品が売れる場所とは?
写真「販売」基礎知識 2/12 日本におけるギャラリーの種類
写真「販売」基礎知識 3/12 作品のエディションって何?
自分の作品の価値の付け方|写真「販売」基礎知識 4/12
知ってた?サインの入れ方とルール
成約から納品、次の展示までのTIPS
写真販売シミュレーション
さて、前回までは、エディションや自分の作品の値段の付け方についてお話しました。
今回は、販売する写真作品のプリントの選択についてや販売する場所でどのような額装をするべきか、お話しします。
プリント技法はどう選ぶ?
いま、ほとんどの人がデジタルカメラで撮影し、インクジェットプリンターでプリントしているのではないかと思います。しかし、美術館などで写真のキャプションを見ると、さまざまなプリント技法の名称が書かれているのを、みなさんも見たことがあるのではないでしょうか。
・インクジェットプリント
・ゼラチンシルバープリント
・Cプリント(タイプC)
・ラムダプリント
・オルタナティブプロセス(古典技法)
サイアノプリント、プラチナプリント、鶏卵紙、ダゲレオタイプ、ティンタイプなど。
作家と趣味でやっている人の大きな違いは、このプリント技法の選択にも大きく関わってきます。
自分の表現したいことに合わせて、プリント技法やペーパーまで選ぶのが作家。
ペーパーの特徴や特殊な現像プロセス自体が好きで選択するのは、趣味の人に多いかもしれません。
好きなやり方を選べばいいとは思うのですが、後者の場合は、その人の作品内容にマッチしているかといえば、そうでもない場合があります。
なぜそれを選択したのか、それは作品に不可欠な要素なのか、ということは、常に見る側に問いかけられることです。
インクジェットや銀塩プリントなどスタンダードではないオルタナティブな技法を使う場合は、特に理由が求められるということを、頭に留めておきましょう。
コストの問題は言い訳に過ぎない
作品制作にはコストがかかるという、作家にとって切実で現実的な問題があります。
しかし、残酷なことに、
「本当はこのカメラで撮りたかったけど、予算の関係で使えなかった」、「アメリカで撮るべき作品だけど、渡航費が無いので日本で撮った」、などの理由でできなかった言い訳というのは、買うお客さんにとっては全く関係のないこと。
自分の作品にとって、銀塩があっているのであれば、銀塩を選択するべきですし、アメリカで撮った方がいいのであるなら、アメリカで撮るべきです。
厳しい言い方かもしれませんが、作家としては、ベストを尽くすべきなのです。
また前回もお伝えしましたが、いくらコストをかけた作品であっても、その作品価格に反映されるということはほとんどありません。アメリカへの渡航にお金がかかったからと言って、コストは価格に反映されない。ベストを尽くしても、それが売り上げにつながるとはかぎりません。
さらに言うと、高級なペーパーや技術力の高さだけで値段が上がることもありません。
著名な写真家が昔焼いた、安いペーパーのプリントに希少性を見出し、何百万出しても手に入れたいという人もいます。
コストをかけたものだからいいというものでもなく、表現したいことに忠実な形態を選択することがいちばん重要なのです。
目的に合った額装の選択
額装は入ればなんでもいいというものではありません。プリントの選択と同じように、しっかりと考えて選択しましょう。額装には主に、3つの目的があります。
(1) 作品の保護
写真作品は紙でできているため、時間や環境により劣化してしまいます。しかし額装をすることで、なるべく劣化を遅くしながら、鑑賞できるものにするために作品を保護する役目を持ちます。
(2) 作品の装飾
ただカッコよくすればいいわけではなく、作品の良さを引き出す役割があります。作品の主題、魅力、雰囲気を、額装することでより引き出すために行います。
ここを無視して単に額装に凝っただけになってしまうと、何のために額装しているのかわからなくなります。たとえば作品が持っているコンテクストを無視して、豪華なフレームをあてはめるだけだと、悪趣味に終わることが多いです。
(3) TPOに合わせる
作品を「時と場所と場合」になじませるための役割を果たします。
買った人が何処に飾るかはそれぞれです。会社のロビーや玄関に今後何年も飾るものなら、耐久性のある額装にする必要があります。また、和室に飾るなら、和に合うものを。額は、飾る環境と作品をなじませる橋渡しのためにあるものです。
額装であり、家具である。環境にも属するし、作品にも属する。そう考えていくと違和感が出ません。
いかがでしたでしょうか?
今回はプリントや額装の選択方法についてお話いただきました。
作品を商品として届けるために、作家は撮る以外にもたくさん選択すべきことがあります。
ひとつひとつ、丁寧に考えていきましょう。
次回は、作品へのサインの入れ方や入れる場所について、具体的に解説します。
写真「販売」基礎知識 2/12 日本におけるギャラリーの種類
写真「販売」基礎知識 3/12 作品のエディションって何?
自分の作品の価値の付け方|写真「販売」基礎知識 4/12