撮りたいテーマの見つけ方
テラウチマサトの写真の教科書19


来年4月に発表する写真集のために、画家のフィンセント・ファン・ゴッホを追う旅に出かけたテラウチマサト。今回は、ゴッホをテーマに選んだきっかけや、奇跡の連続だったという旅の撮影エピソードをお届けします。

うまくいかないパリの旅

パリに向かったのは、今年の4月26日。
なぜ僕がパリに向かったのかというと、それは絵と写真という2つのアートの関係性を、ゴッホの軌跡をたどることで探ってみたいと思ったからだ。

僕にとってゴッホは、もともと遠い存在ではなかった。高校まで絵を習っていたから、有名な画家の作品に触れることも多く、その中には当然ゴッホの作品も含まれていた。写真と絵。その間に身を置きながら、それぞれの魅力はどこにあるんだろうと考えていたときに、ふと頭に浮かんだのは、古くから親しみのあるゴッホの姿だった。

そんな風に、意気込んで出かけた今回の旅。
結果的にものすごい幸運に見舞われたのだが、実は最初はうまくいかないことの連続だった。

まずはスケジュール。本当は、前日の25日に渡航予定でスケジュールを組んでいたのだけれど、他の撮影が入っていたのをすっかり忘れていて、結局1日延びることになった。先方のガイドさんにすぐに連絡をとって、予定を組みなおし、バタバタと忙しない前日を過ごした。

さらに、ゴッホの人生を追うためにさまざまなゆかりのある場所の撮影許可をとっていたのだが、なかなかうまく許可が下りなかった。しかし、スケジュールが1日延びたことにより粘っていると、先方の担当者から海外で活躍している様子がわかる資料を送るようにと連絡がきた。

それで、2012年にパリのユネスコ本部に招聘され、ユネスコ イルドアクトギャラリーで展示を行ったときの様子をメールで送ったのだが、そのデータのおかげか、ずっと無理だと断られていたところの撮影許可が次から次へと下りた。しかし、それは現地に行ってわかったこと。そのときはまだわからないままの渡欧だった。

 

夢みたいな時間

パリ近郊、オーヴェルにあるカフェ兼ワイン販売店のラヴー亭。ゴッホはこの店の3階の屋根裏部屋で最期の70日間を過ごした。彼が息を引き取ったのもこの部屋。

その小さな空間の撮影は、本当に夢みたいな時間だった。
パリに行く前から読んでいた原田マハさんの本『たゆたえども沈まず』の冒頭にも頑なに撮影を断られる描写があり、誰が頼んでも無理だろうと思っていた場所に足を踏み入れることができたのは、渡欧が延びて、それは自分のスケジュールミスからだったのだが、結果、良い流れに繋がったのは忘れられない出来事の1つになった。

さらに嬉しいことはそれだけじゃなかった。そこを管理している方から、ゴッホの部屋の鍵を預かってきたのだ。写真展をする時に、一緒に飾るようにと。信頼して渡してくださったのだと思うと、その鍵がとても重く、ありがたいものに感じられた。

 

自分の目で確かめるからこそ

ゴッホは孤独な人生を送った、苦悩の画家というイメージが強い人も多いだろう。
生前売れた作品は数点しかなく、死後有名になったということもあって哀しい人物と捉えられることもある。

しかし、実際にゴッホが晩年を過ごした場所を歩き、ファインダーを覗いていると、不思議な気持ちになった。ゴッホが過ごした場所は、僕に夢中で写真を撮らせるような力があったからだ。ゴッホはここで悲壮感など感じることなく、楽しみながら絵を描いていたんじゃないかと思った。

ゴッホが入院していた精神病院の中庭に入って撮影した時も、それは同じだった。どうしてと聞かれるとあまりうまく説明は出来ないけれど、文献を読むだけでは決して分からない直感だった。その場所の空気や風景はワクワクさせる力があった。

 

テーマを見つけることの幸福

ゴッホには、描き続けられるものがいっぱいあったのだと感じた。題材が周囲に溢れていた。彼は自分の描いた絵を弟のテオドルスに送っていて、たったひとりかもしれないけれど、絵を見てくれる人もいた。

作品は全く売れず、孤独のうちにいたとしても、ずっと追求してみたいテーマを見つけられたこと、そして、その絵を見続けてくれた人がいることはなんて幸福なことなんだろう。この旅を通して、ずっとそんなことを考えていた。

写真家にとっても、撮り続けたいテーマを見つけるというのは大切なことだ。その1つを見つけるのに必要なのは、きっと思いこむことじゃないかと僕は思っている。これは自分が生涯をかけてやるべきだと言い聞かせること。ゴッホが僕に人生を辿ってほしいと言っているんじゃないかと思い込んで、この撮影をしていた。

実際、ラヴー亭でゴッホが座っていたという席に座ってみたら、彼の想いや日々がすべて見えたような気がしたのだ。勘違いかもしれない、でも、確かに待っていたよという小さな声が僕には聞こえた気がした。

この記事を読んでいるひとの中には、1つのテーマをどうしても途中で投げ出してしまうという人もいるだろう。僕も少し自分を疑うことはあるし、間違えていたかもしれないと不安になる瞬間はもちろんあるけど、そんな時は、試されているんだなと思うようにしている。

作品制作を続けていると、とんでもないことが起こる。突然、襲ってくるピンチもある。けれど、それは本当にやる気があるのか神様が試しているんだ、そう思うと少し気持ちが和らがないだろうか。

ピンチは、実はチャンスや夢に近い。1日渡航が遅れたことによって、奇跡が起こったように。そして、苦悩の画家と言われたゴッホの人生が、どうしようもなく現代の人間の心を、僕の心を、惹きつけるように。

 

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撮影旅のエピソードをもっと知りたい、直接聞きたいという方はぜひ10月1日(火)の『フランス撮影報告会』へ。
まだ誰にも見せていないフランスで撮影した写真をいち早くお見せするとともに、奇跡を生んだ撮影エピソードを詳しくお話します。さらに、テーマの見つけ方、深め方など作品制作のお悩みを解決できるヒントもお伝えします。

今回撮影した写真は、来年4月に新作写真集として発表予定。
ぜひ楽しみにお待ちくださいね。

テラウチマサト『 ゴッホを巡る旅 ―フランス撮影報告会― 』
開催日:2018年10月1日(月)
開催時間:19:30~21:00
会場:「PHaT PHOTO」写真教室・京橋校1階
参加費:3,000円(1ドリンク付/税込)※当日現金にてお支払い下さい
定員:30人お申込はこちらから