決定! 東京国際写真コンペティション2017 受賞者と受賞作品を紹介
Carlos Alba/ カルロス・アルバ(スペイン)
「The Observation of Trifles」
Object: Drawing. Saint Judes Rd., Tower Hamlets, 2013. Photograph: Wizzie & Jeson, Hackney Downs, Hackney, 2014. ©Carlos Alba
外国人移住者に引かれる境界線
About The Observation of Trifles
人にとって「境界」の経験とは、矛盾をはらむものだ。
私たちは常に境界線を引くと同時に、歴史を通して祖先がつくり上げきた境目を越えようと試みている。一方で、地理的、象徴的、そして仮想的な形の境界線は、私たちの生活の中で、非常に際立った特徴として残っている。
私の作品は、外国からの移住者が、新しい土地にいかに自身の居場所を見つけ、近隣の人々と関わっていくかについての物語である。
Object: Photograph, Hackey Central, Hackney, 2015. Photograph: Brick Lane, Tower Hamlets, 2015. ©Carlos Alba
作品は大量生産された都会的な家具、メモ、手紙、ドローイングなど、路上で見つけたオブジェクトと写真を組み合わせてつくり上げている。この作品において最も重要なことは、路上で見つけた物から発せられたシグナルに、導かれるように出会った人々である。
私たちは日常の中で、心理的、または文化的側面から境界線をひくという行為を行っており、アイデンティティや、帰属感と呼ばれるものは、感覚的な境界線に委ねられている。
Object: Map. Saint Judes Rd., Tower Hamlets, 2013. Photograph: Dalston Ln., Hackney, 2014. ©Carlos Alba
これは人間の認知活動における前提条件で、例えば良い/悪い、神聖/俗悪、大人/子供の線引きは、文化の影響を受けて、個人がその境界線を内在化させるものである。これらの線引きは恣意的に見えることもあるが、人々が日々の生活を理解するための文化的資源となっている。
“The observation of trifles(些細なことの観察)” は、写真の美学と詩的価値を忘れないように試みた、コレクション、歴史、建築文書、視覚的・社会的分析の境目に立つ作品である。
Carlos Alba/ カルロス・アルバ
1984年マドリッド生まれ。ロンドンをベースにフリーランスで活動するスペイン出身のヴィジュアル・ストーリーテラー。現代における人間関係に主軸を置いた作品制作を行う。彼の作品にはコンセプチュアルなアプローチが用いられ、それらは現代社会の問題を反映している。主な受賞歴に、Landskrona Foto Residency (2017)、Zona C Visual Artist Awards (2016)、Flash Fowards UK(2016)など。www.carlosalba.com
Ksenia Kuleshova/ クセーニア・クルシューヴァ(ロシア)
「ABKHAZIA」
Abkhazia, Sukhum, 11/05/2016 Aditsa Tsikytania, a socialite, fashion blogger, and lawyer in her living room. ©Ksenia Kuleshova
不安定な体制で生きている「アブハジア」の物語
About ABKHAZIA
アブハズの人々(南コーカサスのアブハジア地方に住む民族)が訪問者に話したがる古い伝説がある。「神がそれぞれの国に土地を与えたとき、アブハズは客人を世話することに忙しく、遅れてやってきた。その結果、彼のために残された土地はなかった。だが、神はアブハズの偉大なもてなしを思い出し、神ご自身がお住みになられたいと思われた唯一の場所 – 黒海沿岸の小さな地域 – を彼にお与えになられた」。
残念ながら、現実はこの伝説の歪んだ投影に過ぎない。
かつてロシア帝国時代に、最も愛された観光地だったアブハジアは、ソビエト連邦時代の後半において、世界地図上において本当の意味での紛失地となった。
Abkhazia, Sukhum, 11/05/2016 Aditsa Tsikytania, a socialite, fashion blogger, and lawyer in her living room. ©Ksenia Kuleshova
1992年の内戦後に独立しているが、それはロシアと他のいくつかの国だけが認める国家であり、国際的にはまだジョージアの一部である。アブハジアは、南オセアチアのジョージア地域などと同様にロシアの傀儡国家となっている。
コーカサスの海と巨大な山々の間にある小さな土地は、オランダの5分の1に過ぎず、国際政治やメディアから長い間忘れ去られている。実在的な産業、インフラ、教育的土壌がなく、海外に散らばったアブハズ人の郷愁的な観光と、ロシアによる僅かな扶助料で生き残っている。
Abkhazia, Sukhum, 03/01/2016.It has been almost 8 years since the last big snowfall in Sukhum. Everybody was outside making a “snowman”, playing snowballs or just walking through the snow. The girl on the picture is making a part of a big snowman. ©Ksenia Kuleshova
本作は、目を覚ます兆候なしに、20年以上の長い眠りについている国の肖像画であり、未来がなく、未来を探そうともしていない、不安定な体制の中で生きている人々の日常生活に関するリサーチである。
Ksenia Kuleshova/ クセーニア・クルシューヴァ
ドイツとロシアをベースに活動するロシア人写真家。モスクワ航空研究所(国立リサーチ大学)にて広報を専攻。ロシアのPRコンペティションにおける受賞後、エージェンシーに所属し活動。その後、ドイツに移住し写真の道を選ぶ。ハノーバー芸術科学芸術大学にてフォトジャーナリズムとドキュメンタリー写真の学士号を取得。www.kuleshova.de