ポートレートにおける被写体との関係の結び方。アイヌの人たちをどのように撮影し、作品にまとめたのか? 池田宏『AINU』インタビュー
アイヌの人たちを題材にした人気漫画「ゴールデンカムイ」を読んだことがある人はいるかもしれないが、いまアイヌの血を引く人たちが、どこでどのように生活しているのかをリアルに知る人は、それほどいないのではないだろうか。
アイヌはもともと北海道、樺太、千島列島、本州北端に先住し、独自の豊かな文化を持つ民族。明治政府の同化政策によって彼らは土地や言語や文化を奪われた。
そんなアイヌの人々のポートレイト撮影を2008年~2018年の10年間続け、2019年に写真集『AINU』を上梓した池田宏。アイヌの人たちを撮影したいと思ったきっかけや、ゆかりのないなかでどのように知り合い、関係を結んで撮影を進めたのか、制作の過程を訊いた。
——なぜ、アイヌの方々を撮影されようと思ったのですか。
池田 もともと、海外を撮影したいという気持ちがあり、学生時代からバックパッカー旅行をしていました。スタジオマン時代に台湾へ撮影しに行きましたが、帰国後に現像して見た写真には何も写っておらず、ただ表面的な見栄えのいいものばかりを撮っていることに気が付き、海外を撮影することをやめました。
それから国内をテーマに撮影をしようと決め、大学生の時に外国語を勉強していたことや、世界中の民族に興味があったことからアイヌの人たちを撮りたいと思い北海道へ行きました。
――どうやって被写体を探したのでしょうか。
池田 最初に北海道の二風谷(にぶたに)というアイヌの人たちが多い集落を訪れ、そこで出会った人たちがひとつのきっかけとなりました。
その後関東にお住いのアイヌの方に東京で出会い、その方の里帰りに便乗して北海道へ行きました。そこから他の地域に住むアイヌの人たちと知り合っていきました。
また、道内で行われている儀式儀礼に参加させてもらい、そこで出会った人たちと後日再会したりと、少しずつ出会いを増やしていきました。
――アイヌの人たちとはどのようにして関係を結んでいきましたか。知らないコミュニティに入り込むための工夫などどのようにされましたか。
池田 写真を一番にしないことだと思います。出会ってすぐに写真を撮らせてもらうということはほとんどなく、二度、三度と出会いを繰り返していき、海や山や川へ一緒に行ったり、仕事場に行ったり、ご飯を食べたり、お酒を飲んだり、カラオケに行ったり、儀式に参加させてもらったりと、何かの途中にあるものが写真集にまとめられています。
——撮影で苦労された点はありますか?
池田 北海道までの渡航費と、北海道での移動費用を捻出することでした。LCCの就航のおかげでだいぶ助けられました。
――写真集の構成などで工夫されたところはありますか。
池田 アイヌのことを知らない人たちが持つ、ステレオタイプなイメージを覆すものを作ろうと思っていました。また、ただのドキュメンタリーではなくあくまでポートレートを主体として、スタジオ時代に身につけたライティング技術も取り入れながら、これまでに出版されたアイヌの写真集の型を破ろうと決めていました。
――写真集はさまざまな種類の写真で構成されている。アイヌの人たちを敬う気持ちが現れた、関係性が見えるポートレイト。文化や風習がわかるスナップ写真。アイヌの人たちの生活や仕事が垣間見られる背景。北海道の自然…。
巻末には「現代アイヌの肖像」と題した、様々な境遇で生きる5人のインタビューが収録されている。
作者が長い時間をかけてアイヌの人たちと向き合った日々をたどりながら、アイヌの人たちの「いま」を見つめよう。
A4変形タテ/上製/ 128頁(カラー112頁・モノクロ16頁) 定価:2,900円(税別)
いけだ ひろし/1981年生まれ、佐賀県小城市出身。大阪外国語大学外国語学部スワヒリ語科卒業後、2006年にstudio FOBOS入社。2009年よりフリーランスで活動する。