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注目の写真家インタビュー 「家族って、普通って何?」 山本雅紀の写真集『我が家』


ZOOMS JAPAN2016にてエディター賞を受賞した
山本雅紀の作品「我が家」。
昨年、同賞の特典で訪れたフランス・パリのヨーロッパ写真美術館で
館長のモンテロッソ氏にも評価されて
作品が買い上げられ、美術館に収蔵されることになった。
また2017年9月にZEN FOTO GALLERYより写真集を出版し、
11月にはパリで個展。
さらに2018年1月12日(金)~2月3日(土)には、
ZEN FOTO GALLERY(東京・六本木)で
写真展を予定しているなど、若手実力派の写真家だ。

物であふれかえった部屋の中。
パンツ1枚で頭を剃る父に、鍋ごとすする食事の様子…。
ありのままがすべて突き抜けている「山本家」の家族写真は
どのようにして生まれたのか、その経緯について訊いた。

 

いつも川の字で寝てきた山本家

――なぜ、家族を撮ろうと思いましたか。

山本 家族写真はずっと以前から撮っていたのですが、作品としてしっかり撮影しようと思ったのは、2012年のニュージーランド滞在中でした。

英語の上達と作品制作が目的でしたが思うようにいかず、「こんな誰でも撮れる、誰が撮ってもいいような写真では意味がない。どうせなら写真を学んだ今もう一度家族をしっかり撮影しよう」と思ったことがきっかけです。

遠い海外で長い間離れていたこともあり、家族について思いを巡らせる時間や距離があったことも要因だと思います。

――巻末に写真の説明がありますね。「誰がケーキを切り分けるかで奪い合う」とか、「大みそかに年越しそばを食べる」とか、「カメラを向けられポーズを決める」とか、文章で読むとよくある家族のエピソードなのに、山本さん一家の写真になると、インパクトの強い写真になります。どういうタイミングで写真を撮っていましたか。

山本 撮っている時は笑っていることが多いです。写真を見た友人に「悪意を感じる」と言われたことがありますが、嘲笑もあると思います。

本当にバカにしているのではなく、そんな馬鹿馬鹿しかったりくだらない、なんでもないような生活やそれを良しとする家族に、嬉しさや親しみを感じているんだと思います。

――これだけ物にあふれた家の中の様子や、無防備すぎる家族の姿は、撮ることを嫌がられることもあるかと思うのですが、家族は撮影に対して協力的でしたか。

山本 とても協力的でした。僕から指示をすることもあれば、何も言わなくてもむこうから応じてくれることもありました。妹は入浴中や着替えなど年頃の女性であれば拒絶するであろう場面でも、「回らないお寿司をご馳走してくれるのであれば」という条件のもと受け入れてくれました。

父と次女の妹は比較的写りたがらず拒否することもありましたが、パチンコ代をあげて貸しをつくったりおべっかを使ってタイミングを見計らうなど工夫をして撮影しました。

――「家族を被写体にして作品をつくるのは難しい」と、読者から聞いたり、コンテストで審査員が言ったりすることがあります。家族の写真を「作品」にする上で、悩みはありましたか。

山本 家族は撮影に協力的で、僕もカメラを向けることやその写真を発表することについてほとんど抵抗はありませんでした。ただ、これを発表することで幸せ自慢みたいにならないかなという恐れはありました。

――いちばん気に入っている写真について教えてください。

山本 いくつか特に気に入っている写真はありますが、いちばんは表紙にもなった「いつも川の字で寝てきた山本家」の写真です。

10歳まで住んでいた団地でもこんな感じで、そこを(家賃滞納で)強制退去させられてから車中生活をしていた時も、ワゴンの後部座席を全部倒してみんな折り重なって寝ていました。

その後児童養護施設に預けられてからも、2週間に一度、外泊していた親が住む六畳一間のアパートでみんなひっつきながら寝て、また家族一緒になり18年間暮らしてきたこの家でもこうして生活してきました。

寝ている写真ですが、僕たち山本家の生活そのものや家族の歴史、価値観などが象徴されているようで、撮影している時やこの写真を見ている時に懐かしさのようなものを感じるからです。

 

家族って、普通って、何か?

――写真集を出版されましたが、ZEN FOTO GALLERYから写真を出版することになった経緯は?

山本 写真コンテストに応募してその特典として写真集出版を目指していこうと考えていた矢先に、ある写真仲間の男性がZEN FOTO GALLERYのオーナーさんに僕の写真集を出すことを薦めてくれました。その半年前にZEN FOTO GALLERYでグループ展をしていたこともあり話がトントンと決まりました。

――装丁も素晴らしいですが、こだわった点や、山本さんが気に入っている点などありますか。デザイナーの方とはどのように制作を進められましたか。

山本 僕が気に入っているのは見開きです。コデックス装(※)にすることで中心が綺麗に開き見やすくなり、余白をなくすことで生々しさや画ヂカラも強まったのが良かったと思っています。

(※)コデックス装:糸で綴じられた背部分がそのまま見えている装丁のこと。デザイン的な面白さだけでなく、開いたときに平らになり、見開きの写真が見やすい。

また写真の構成において僕がいちばん大切だなと考えたのはテンポでした。モノクロでインパクトの強い写真も多く、ほとんどが家の中で撮られた写真なので最後まで読みやすくすることを意識しました。

ページを開いていく時、見開きとそうではない写真とのリズムや白いページを入れるタイミングなどを重要視しました。

デザイナーさんは話をすごくよく聞いてくださる方で、家族や写真の話はもちろん全然関係のないような話もたくさんしました。

どういう写真集にしたいか、この写真集はどういう見せ方が向いているのかのイメージが一致していたのでスムーズに進んだと思います。

――英語のタイトル「GUTS」に込められた意味は?

山本 元々は以前にZEN FOTO GALLERYでグループ展をした際にハラワタというタイトルの英訳としてつけたものでした。生々しくて血の通った生活感が渦巻くものとしてハラワタとつけましたが、英訳にはいくつか候補があり、GUTSにはもうひとつ根性という意味があるので良いんじゃないかとなりました。

「我が家」の直訳ではありませんが、英語のタイトルとして目立つしこの写真集にも良いのではという話し合いのもと決まりました。

――作品を通して、伝えたいことはありますか。

山本 僕としてはこの写真はユーモアとして家族の話をしているようなものなので、見る人に楽しんでもらえればいいと思うのですが、何かメッセージや世間に訴えたいものがあるわけではなく、ただ写真を見た人に問いを投げかけられる写真だとも思っています。

その人にとっての家族や幸せって何なのか、家族って普通って何か、社会における家族のあり方など見る人によってさまざまだと思います。

 

写真集「我が家」は現在、shashashaのオンラインショップで販売中!
写真だけでなく装丁も素晴らしい1冊。ぜひご注目ください。

「…小学3年生の頃に家賃滞納で団地を追い出され車中生活をした後、2年半過ごした児童養護施設から出て、再びここで家族一緒に生活をしてきました。
初めは広く感じた部屋も、粗大ごみで拾ってきた食器棚や勉強机などで埋められていき、数年後には物で溢れテレビのリモコン一つ探すことにも苦労しました。
そして成長するにつれていじめや引きこもり、病気や素行不良などそれぞれの背景を持つようになり、それが山本家の過去と絡み合ってこの生活や家族の関係があります。
そんな山本家は人間臭くてありのままで、どういうものに魅力を感じるか、何を良しとするのかというこの家族の価値観や好みに強く共感し、ここが私の出発であり帰ってくる場所だと認識することができました」 (写真集あとがきより)

山本雅紀さんの写真展「我が家」が東京・六本木のZEN FOTO GALLERYで開催されます。
フランスの写真関係者にも注目された、力強いモノクロの家族写真をお見逃しなく!

山本雅紀写真展「我が家」
ZEN FOTO GALLERY
会期:2018年1月12日(金)~2月3日(土)
時間:12:00~19:00
休廊:日・月・祝
住所:東京都港区六本木6-6-9ピラミデビル208号室


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