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レビューに大切な「オリジナル」の意味 PPC道場年間優秀者・船見征二×渡部さとるのレビューレポート1/2


「5枚」の写真で応募する組写真のPPC道場で、2018年の年間優秀者に輝いた船見征二さん。
受賞者特典として、2019年7月31日(水)~8月11日(日)までの間、東京・京橋のT.I.Pギャラリー内「ブルーウォール」で展示を行ないました。さらに、写真家の渡部さとるさんによるポートフォリオレビューも実行。

PHaT PHOTOでは、そのレビューの様子を2回に分けてお届けします。
第1弾は、作家が目指す“オリジナル”な作品の考え方について。

多くの人が撮っている被写体や、偉大な先人が扱ってきたテーマ…。
たくさんの写真家がいて、一歩抜きん出るのが難しい中で、評価されるためには?
その方法を渡部さんが語ります。

(左)船見征二さん(右)渡部さとるさん

オリジナルを踏まえて作品をつくることの重要性

渡部  まずは、作品について教えて頂けますか?

船見  僕はふだん、両親と床屋をやっているのですが、その床屋の窓際にいつも飾ってある花を撮っています。花は毎回、近所のおじさんとおばさんが持ってきてくれて、自分で買ったことはありません。

花への興味は薄いのですが、仕事中に何気なく目に入る花が、本当にいい形をしているんです。つぼみの時や、美しく咲いている時、枯れかけている時。
ぱっと目についた瞬間、自分の心に引っかかった時の花の様子を写したシリーズです。

展示作品より

渡部  作品のクオリティ的にはまったく問題ありません。美術館なのか、ギャラリーなのか、どんなふうにアプローチするのかで、いろんな可能性があると思います。
ただ、1つだけ言えるのは、写真家の多くは「花とヌードは手を出すな」っていう認識があるんです。

船見  それはどうしてですか?

渡部  花というテーマは先人が数多く撮っていて、どうしても過去の名作と比べられてしまうんです。先行者のアイディアやクオリティを超えるのはなかなか難しい。もしこの花のシリーズを続けていきたいと思うのなら、その先行者の勉強をしておかないといけません。船見さんは、ロバート・メイプルソープを知ってますか?

船見  名前だけは知っています。

渡部  花の写真を撮るなら、必ずメイプルソープの話は出ます。必ず、です。花を撮るなら、ロバート・メイプルソープと、そしてアーヴィング・ペンを考えないわけにはいかない。2人とも独自の美学を持った、偉大な写真家です。

2人の作品を見せる様子

日本人は、「オリジナルが大事で、真似することがよくない」と考えがちなのですが、欧米は「オリジナルを踏まえた作品」の方が良いんですよ。昔の美術や文学も引用して、自分の作品にちょこっと残しておく。

「これは、メイプルソープを踏んでいるね」「これは、ペンの『フラワーズ』を踏んでいるね」というのは、国が違っても共通の認識として持つことができます。そのうえで自分の作品性をもし出すことができたら、世界でも通用する。

船見さんは、プリントのクオリティや、撮影テクニックはかなりの段階まで来ています。だから、これ以上にプリントのクオリティを上げるよりも、今話したような作品の土台的なものを見ていく方が楽しいし、作品性が上がると思います。

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※記事途中よりプレミアム読者のみ閲覧可能です。

船見  なるほど…。

渡部  そして、最初の作品についての説明は「自分のこと」でしたよね。「自分が床屋で、理容室をやっていて、近所の人が持ってきたお花を撮っています」っていう話。でもそれは、他の人とっては「それで何?」となってしまう可能性が高い。自分を知らないレビュアーに「それで?」と言われてしまうと、今のままだとそれ以上展開することができない。

だとしたら、先ほど話した「写真の話」なら共通的なものをみんな持てるので、「メイプルソープの時代の花はこうだったけど、2020年の現代に、私は花をこういう風に解釈しています」という言い方をすれば、印象は大分変わります。

共通の認識としての話をベースに、私はこういうものを今足していますよっていう言い方ができれば、そこが日本であろうと海外であろうと話がしやすいと思います。

ただ、本当にテクニック的にはとても美しい作品です。この写真が30年前にもしあったらとんでもないことになっていましたね。デジタルの技術があがったことで、いろんなことが可能になったというのも大きいです。ここに今の時代性を足していけるようなことができるといいですね。

レビューのワンポイント「写真の効果的な見せ方」

まずレビューを受ける時には、作品はポートフォリオにファイリングしておくのではなく、ばらばらにして箱に入れておいた方がいいです。「これとこれは共通点がある」などと、写真を入れ替えながら話を広げることができるので。ブックでストーリーとして組む場合もありますが、作家個人のストーリーになってしまいがちなので、それを嫌がるレビュアーもたまにいます。できるだけ広がりをもたせたいんですよね。

見せる側としては、とにかく話を盛り上げられたほうがいいので、プリントはばらばらにして並べて見せる方が、こういうプレゼンテーションの場所だと有効だと思います。カバーに入れると、シャドウの微妙な階調などが意外と見えないんです。こだわっているのに勿体ないですよね。

ビニールが反射してしまい細部が見づらいので、ボックスタイプが渡部さんのお勧め。

受賞者特典の展示の様子

vol.105で総合1位を受賞した『In the flowerpot in the room in the dark』に加え、動物をテーマにしたシリーズも展示。青い壁の静かな空間に調和した作品が並びました。


写真を見るプロによるポートフォリオレビューと展示が年間受賞者の特典となるPPC道場。
現在、2019年の第3期の応募を受付中です!ご応募は9月30日(月)まで。
お気軽にご応募くださいね。
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STORY TELLER / 写真家達の物語 vol.37

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