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青山裕企×テラウチマサト 写真の世界で“楽しく闘う”ための5つのヒント

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イベント、出版、ギャラリー、文章執筆に、写真講義まで。61冊目の著書「クリエイターのためのセルフブランディング全力授業」がまもなく発売される青山裕企さんと、日本最大級の写真展「御苗場」をプロデュースするテラウチマサトさん。写真家としての活動だけにとどまらない2人は、それぞれどんな想いで今の活動を続けているのか。

2018年3月「御苗場2018」の中で開催された、トークイベント「写真の世界で“楽しく闘う”ための全力授業」の内容を一部抜粋し、「写真は面白い!写真は楽しい!」を原動力に、その喜びを伝えるために全力で活動してきた2人が考える、この世界で“楽しく闘っていく”ためのヒントをお届けします。

 

1.「月並み」と「自分らしさ」

――今回の御苗場では約300ブースの展示がされていますが、作品を観られていかがですか?

テラウチ 写真雑誌に載っているようなレベルの、「うまい」作品がたくさんあると思います。一方で、少し厳しい意見かもしれないけれど、多くの写真が「月並み」と感じるところもあって。「月並み」って、それなりにうまいレベルですよね。でも、そこから抜け出さないといけないと感じます。

青山さんの作品の「SCHOOLGIRL COMPLEX」を見ると、作品が出た当初はこんな風に女子高校生を撮った人はいなかったと思います。月並みを超えて、「自分らしさ」にこだわることがこの作品に繋がっているのかなと思ったのですが、どうですか?
写真集「SCHOOLGIRL COMPLEX 2006-2015」/ Yuki Aoyama

青山 僕にとっての「自分らしさ」って、逆に「月並み」にあるのかも、と思うことはありますね。高校生時代に女の子に対しての恐怖心があって、自分だけの感情なのかなと思ってこの作品を発表していました。

でも、人に「わかる、わかる!」と言われたときに、「この感情って一般的だったんだ」という気づきがあって。思わぬ共感を呼んだんですよね。他人とは違う自分だけの表現をしたい、というのは自然な考えだと思うんですけれど、本当に自分しかわからない世界を表現したら、誰にも共感してもらえない。

――「月並み」な感情が込められていることと、写真の「自分らしさ」のバランスですね。

青山 「むすめと!ソラリーマン」という作品は、「楽しそう」とよく言われるんですけど、時々「切なくなる」という感想をもらうことがあります。「父親のことを考えると、娘さんも将来お嫁に行っちゃうんだろうなって想像して切なくなる」、ということみたいなんですけれど。
写真集「むすめと!ソラリーマン」/ Yuki Aoyama

見た人に幸せな気持ちになって欲しいとか、親子関係について考えてほしいとか、僕にもいろんな思いがありますが、写真というのは最終的に見た人がどう思うか。1枚の写真からどれだけの感情が立ち上がるかということが重要だと思っています。

同じように「SCHOOLGIRL COMPLEX」でも、男性としての自分の思春期の感情を表現していたのに、作品を見た女性から、「わかる」とか「なつかしい」という感想をもらったこともあって。それは写真の可能性をすごく感じましたね。

2.内から湧き出てくるものを形にする

――テラウチさんは「作品」として世に出す時に、どういうことを意識していますか?

テラウチ 言葉が悪いかもしれないけれど、「モデルを材料にして料理をする」という感覚でしょうか。食べたときに(=観たときに)「一体なんの素材を使っているの?」と相手を驚かせたいですね。

これは「redfish」という作品で、魚が人間に変わっていくというコンセプトです。このモデルを見た時に、昔買っていた金魚を思い出して。それを写真にしてみようと思って作り始めました。そういうテーマをもって撮ってみると、普通にポートレイト撮影をするよりも面白くなります。
「redfisn」/ テラウチマサト

青山 その話は「これぞ作品づくり」、という感じがします。コンセプトを真面目に考えて撮り始めるんじゃなくて、超個人的な物語や、思い浮かんだものを写真で表現しよう、というところ。
「展示があるから作品撮らないと」ということももちろんあると思うんですけど、内から湧き出てくるものを形にするということで「作品」になるのかなと思います。

――テラウチさんは、「撮りたい!」という気持ちが先行して作品になることが多いですか?

テラウチ もちろん写真展の日時が決まって、そのために作品を撮らなければいけない、ということもありますよ。そんなときはまず著名な作家の写真を「オマージュ」することもありますね。

青山 「オマージュ」っていうのはすごくわかります。でも、オマージュしてみても、全く同じにはならない。どこかで自分とオリジナルとの「ずれ」が出てくるはずなんです。その「ずれ」に注目して、ずらし方を大胆にしていくことで一気に自分らしい作品にしていくことができるんじゃないかなと思います。

3.新しい作品が生まれるきっかけ

――作品が生まれるきっかけは、どんなところにあるんですか?

テラウチ 富士山の作品でいうと、富士山って誰でも撮るじゃないですか。例えば「富士山」と「桜」で画像検索してみると、青空背景にして満開の桜と富士山という構図が多い。ならば、そうではないものは撮れないかと思って撮影をスタートしました。

僕自身、華やかさに対するものとしての暗さに、日本的な美意識を感じていたので、それを撮ってみようと思って。こんな昏いトーンで撮影する人は少なかったんですが、この写真に共感してくれる人もいるんじゃないかと。
写真集 「F(エフ) 見上げればいつも」より/テラウチマサト

青山 「新しい視点」を提供することが作品の価値になると思っています。女子高生とかサラリーマン、富士山も記号的存在だなと思っていて、いろんな人が撮っている。けれどまだ撮られていない角度は絶対にある。それを見つけていくことが重要だと思います。

ソラリーマンは、シリーズをはじめた当初は、ただ友達をジャンプさせて撮っていたんです。でも父親が亡くなったことがきっかけで、憑りつかれたように撮り始めて、最終的にこれで出そうと。

テラウチ ソラリーマンというタイトルも青山さんが考えてるんですか?

青山 はい、タイトルも自分で考えてますね。タイトルありきではなく、撮っているうちにぽーんと出てきましたね。決定的なものが出てくるまで待つしかない、と思っています。

4.バズり過ぎたら終わり

青山 今回のトークタイトルの「楽しく闘う」ってことを考えると、モチベーションを高く保つことが重要だと思うんですけど、結構大変な時代だなと思っていて。

「バズる」って言い方があるじゃないですか。SNSもこれだけ広まっていて、オーディエンスに「見つかりやすい時代」だと思います。それはそれでいいと思うんですけど、逆にその人気は短期的なことが多くて、長い目で見てくれる人が少ないんですよね。

「SCHOOLGIRL COMPLEX」が出た時は「バスる」状態だったんですが、そのあと少し「エロ」要素の強い類似本がすごく出てしまって。僕は本屋さんの写真集コーナーとかをめぐるのが大好きなのですが、写真集コーナーがそれらの類似本であふれていたときは、自分のせいで大好きな場所を汚してしまった気がして、すごいショックでしたね。「バズる」には副作用もある。
写真集「SCHOOLGIRL COMPLEX」/ Yuki Aoyama

ソラリーマンも写真集を出すと話題にしてもらえるんですけど、絶妙にブレイクしない感じ、消耗品にならないように…と思ってはいます。「バズりたい!」と思っている人って多いと思うんですけど、消費されてしまうことも多いから、僕自身は「バズり過ぎたら終わり」だなって思います。

テラウチ 重要だと思います。僕も、写真集は増刷しないと決めています。写真作品のエディションと同じ感覚です。
写真集「NY 夢の距離」より/ テラウチマサト

青山 トークイベントもそうですけど、現場に来こないと見られない、手に入らない、というものに価値があるなと思っています。価値をつけたいというよりも、来てくれるということがすごいと思っていて。SNSで見てますと言って頂けるのも、もちろん嬉しいんですけど、このために東京出てきましたと言われるともっと嬉しいですよね。

5.写真家として生き続けていくために

テラウチ 青山さんの写真家としての価値、これからずっと生きていくための価値はどう考えていますか?すごく難しい質問だけど(笑)

青山 とにかく「さらけだす」、「身を削る」しかないと思っています。大事なことは、ちゃんと削る、全力で削る。適当な削りカスを出すのではなくて、全力で削ったものを提供する。それしかないかなと思っています。
僕は、他の写真家に対して自分が負けないことは「写真で食べていく覚悟」だと思っていて。

テラウチ 覚悟って誰でも使う。けど青山さんのそれは、相当な覚悟ですよね。

青山  結構強い言葉なので、恥ずかしかったりもするかもしれないんですけど。テラウチさんはどうですか?

テラウチ  僕の覚悟は「逃げまくる」。絶対つかまらないでいたい。それは写真家としての希少価値だと思っています。「姿をあまり見せないけど、実はテラウチがプロデュースしてたんだ」と思われるのって、ちょっとかっこいいと思ってます。

青山 なるほど、僕は全然その域に達してないですね。

――ありがとうございます。今回はおふたりの作品を紹介しながら、作品が生まれるきっかけや写真の世界の生存戦略をお聞きしました。おふたりの著書もご紹介しますので、ぜひご覧ください。

書籍情報


青山裕企 「クリエイターのためのセルフブランディング全力授業」
発売:2018/3/30
価格:1,900円(税抜)
ページ数:192ぺージ
Amazon

 


テラウチマサト写真集 「NY 夢の距離」
発売:2017年
価格:3,519円(税抜)
ページ数:90ぺージ
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プロフィール

青山裕企
1978年 愛知県名古屋市生まれ。筑波大学人間学類心理学専攻卒業。2007年 キヤノン写真新世紀優秀賞受賞。2015年 ユカイハンズ・ギャラリー開廊。2016年 ユカイハンズパブリッシング 設立。現在、東京都在住。今までに 60冊の著書を刊行していて、代表作は『スクールガール・コンプレックス』『むすめと!ソラリーマン』など。吉高由里子・指原莉乃( HKT48)・生駒里奈(乃木坂 46)・オリエンタルラジオなど、時代のアイコンとなる女優・アイドル・タレントの写真集の撮影を担当している。 お金マイナス・人脈ゼロで、写真を始めて 20年、上京・独立してから 13年目。自分なりの戦略で、写真業界を泳ぎ続けている。yukiao.jp
テラウチマサト
1954年生まれ。日本実業出版社を経て 1991年に独立。ポートレイト、風景、プロダクトから空間まで、独自の表現手法で常に注目を集める写真家。2012年パリユネスコ本部より招聘され、ユネスコのギャラリーにて写真展を開催。 2016年、富士山頂浅間大社奥宮にて画家 Yutaka Murakamiと共に個展を開催した。モノやコトの “隠れた本質 ”を捉える着眼点や斬新な表現手法に、イベントプロデュースから、町興しのオファーも集まる。写真家としてのクリエイティビティを活かした幅広い創作活動を得意とする。米国マサチューセッツ工科大学で講演するなど、海外からも高い評価を得ている。www.terauchi.com

 


STORY TELLER / 写真家達の物語 vol.37

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まちスナ日和