テラウチマサト×沖昌之[後編]/「猫写真家」としての決意
盛況の後に終了した、沖昌之さんの「残念すぎるネコ」展。写真家のテラウチマサトさんとのトークショー後編です。
走れるところまで走る。息が切れた時に判断すればいい
テラウチ 「猫」を被写体に写真家として活動していくって、本当に大変なことだと思っています。それは「夕陽」で入るのも、「富士山」で入るのも同じように大変なのかもしれない。みんなが同じようなものを撮って、一様に可愛いというところに軸がおかれるからね。
沖 猫に甘えてしまうとそうなりますね。可愛いというのは絶対ポイントとしてもらえるから。そこにずっと甘え切ってしまうと、猫におんぶにだっこになってします。そうじゃなくて、猫が何もしてなくても、すごいねって言わせるような視点でいないといけないとは思っています。
テラウチ 沖さんは授業受けながら辛かったことある?
沖 正直、ずっと辛かったです。怒られるとかいじめられるとかじゃないですよ(笑)。ただ、こう、なんでしょう。テラウチ先生ってポートレート撮られてることもあって、人をすごく見られているんですよね。いろんなことを感じながら生徒を見られているから、僕自身もめっちゃ考えるんですよね。「この猫可愛いですよね」とか僕が言っても、「どう可愛いんですかね?」ってきっと言われるから、その時にどう答えようか、とか。
テラウチ 沖さんはそれを悩み通してくれたんだよね。だから今があると思う。今のように名前が知られるまで、どうやって挫折しないで頑張ってきたの?
沖 先生が言ってた、「量よりまず質をあげる。質が高まったら量をあげろ」という話を聞いた時に、それはinstagramでやるしかないと思って頑張っていました。それでいいねをしてもらったり、「頑張れよ」とか「応援します」とか個人的に言われると真に受けて頑張れちゃうんです(笑)。
いろいろ悩むこともあるけれど、毎日2~3枚あげるっていうノルマがあったから、それをどうやって精度をあげるかを日々考えていましたね。
それをやりきって答えがでなかったら、それはもう自分の実力不足。走れるところまで走って、息切れした時に判断しようみたいなことはずっと考えていましたね。
「猫」写真で腹をくくる
テラウチ 沖さんは応援したくなるタイプの人だと思う。それはいつまでたっても謙虚なところがあるからかもしれないね。でも作品は主張がありますよね。
沖 そうですね。埋もれたくなかったので作品では主張はしないと。instagramで猫って検索する、世界で1分に100枚くらいはあがるんです。僕がアップした1分後には100番目になってるし、1日後はもうない存在と同じ。名前は憶えてもらえなくても、「あいつの面白いよね」って言ってもらえるようになりたいなって思ってきました。
テラウチ 沖さんの猫は、見たことがないジャンルを1つつくったような気がする。沖さんがその場所に座り続けるかぎり誰も座れないと思います。
沖さん、浮気しない方が良いと思うよ。「そのジャンルの人」って言われはじめると、自分でそれを変えたくなることがあるんですけど、せっかく自分のブランドになったのなら、そこで進んだ方が良い。
沖 それはちょっと思いますね…。「必死すぎるネコ」「残念すぎるネコ」が出て、今は「~すぎる」猫の沖さんって言われるんです。でも猫って、そんな毎日「すぎ」てないしなって(笑)。
テラウチ でも僕は「すぎる猫写真家」って言われた方が良いと思う。今まで誰もやってなかった新しいブランドだし、大事にしたほうがいい。
沖 周りはきっとやりたがってくださると思います。
テラウチ 猫から違う被写体にいくことはない?
沖 それはないですね。猫以外の撮影が下手過ぎるので。TwitterとかFacebookにあげてもいいねが少なくて、「そうだよな」と思いながら自分の中でやんわり流しています。
テラウチ たとえばよく、ゴッホは生きてるときに2作品しか売れなかったとか言われるでしょう。上野でフェルメール展が開催されているけど、フェルメールなんて売れるのに200年かかってるんですよ。だからそこはいいねをあまり求めなくてもいいんじゃないの?
沖 そうですね…。でもやっぱり僕は猫だけに時間を費やしていきたいですね。じゃないと撮れないな、とも思いますし。腹をくくってるというか。それで負けたら仕方ない、みたいに思っているので。猫を撮りたい想いは写真をはじめたころから変わりませんし、周りに色々言われたとしても、「みんな分かってくれないなあ」って言いながら、これからも同じ猫写真をずっとやってると思います。
テラウチ 僕は最近、ようやく自分の人生に向き合うようことが多くなった。ようやくです。でも沖さんの話を今聞いていると、僕と出合った30代の頃から沖さんは自分の人生に向き合ってるって感じだね。チャレンジしてる人は絶対そうなんですよ。だからすごいなと思う。今日一緒にトークをやらせてもらって、僕も頑張んなきゃいけないと思いました。今日はありがとうございました。
沖 こちらこそありがとうございました。