「つかのまの廃墟」を大判カメラで写した宮本隆司『建築の黙示録』|飯沢耕太郎が選ぶ「時代に残る写真集」Vol.14


宮本隆司『建築の黙示録』平凡社、1988年

宮本隆司は1947年、東京都世田谷区に生まれた。1973年、多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業後、建築雑誌の編集部員を経て、76年からフリーの写真家として活動する。1982年頃から世界各地の近代建築の解体工事現場を撮影し始め、1988年に写真集『建築の黙示録』を刊行した。同書と『九龍城塞』(ペヨトル工房)で第14回木村伊兵衛写真賞を受賞。以後、建築物を中心に作品を発表して、日本現代写真を代表する作家のひとりとなった。

東京都写真美術館『建築 × 写真 ここのみに在る光』
「第2章 建築写真の多様性 ~11人の写真家たち~」に宮本隆司氏の作品が展示されている。
<11人の写真家>
渡辺義雄、石元泰博、原直久、奈良原一高、宮本隆司、北井一夫、細江英公、柴田敏雄、二川幸夫、村井修、瀧本幹也
会期:開催中~2019年1月27日(日)
場所:東京都写真美術館
〒153-0062 東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内

宮本隆司は1983年に、後藤慶二が設計した中野刑務所(旧豊多摩監獄)を撮影したのをきっかけにして、日比谷映画劇場、有楽座、根岸競馬場、霊南坂教会といった、大正〜昭和初期に竣工した近代建築の解体工事現場を集中的に撮影し始めた。

Hibiya Movie Theater/Tokyo
Yurakuza Theater/Tokyo
Negishi Race Course/Yokohama

それらの写真群と、ベルリン大劇場、アウガルテン要塞、バクシー発電所など海外で撮影した写真、さらに違法滞在の移民たちによって増改築を繰り返して、巨大スラムと化していった

香港の九龍城塞の写真を加えてまとめたのが、1989年の第14回木村伊兵衛写真賞の受賞対象となった写真集『建築の黙示録』である。

Grosses Schaspielhaus/East Berlin

Battersea Power Station/London

宮本がそれらの写真を撮影したのは、ちょうどバブル経済に向かう時期。各地で市街地の再開発が進み、老朽化した建築物が次々に取り壊されていった。それらの解体工事現場や廃屋になった建物には、普段はのっぺりとした都市の表層に覆われて見ることができない、鉄骨、パイプ、支柱などの骨組みが剥き出しになり、思いがけない場所から光が射し込む、奇妙に生々しい眺めが出現してくる。宮本はそれらの「つかのまの廃墟」の光景を、大判カメラで、細部まで克明に写しとっていった。そこには、建築物を対象にしてひとつの時代の終焉を見届けようとする、黙示録作者としての姿勢が貫かれていた。

Pavilion of Tsukuba Expo.'85/Tsukuba
Kowloon Walled City/Hong Kong

宮本は『建築の黙示録』で確立した冷静で客観的な撮影のスタイルをキープしつつ、その後は被写体の幅を大きく広げていった。カンボジアの仏教遺跡をカラー写真で撮影した「Angkor」(1992年)、都市のホームレスの住居である「ダンボールの家」に着目した「CARDBOARD HOUSES」(1994年)といった意欲作を次々に発表し、1995年の阪神・淡路大震災の直後に神戸を撮影した「KOBE 1995 After the Earthquake」のシリーズは、96年の第6回ヴェネツィアビエンナーレ建築展に共同出品されて金獅子賞を受賞する。2000年代以降は、大型ピンホールカメラによる作品や、映像作品なども積極的に発表するようになった。それでも『建築の黙示録』が、宮本の多彩な表現活動の原点となる仕事であることは間違いない。

飯沢耕太郎が選ぶ「時代に残る写真集」Vol.14
宮本隆司『建築の黙示録』平凡社、1988年

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