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発表! 写真評論家・飯沢耕太郎が選んだ2019年の写真集ベスト3とは?

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2019年に出版された写真集の中で、あなたはどの写真集がいちばん記憶に残っていますか?
今回は毎年恒例、写真評論家の飯沢耕太郎さんが選んだ、2019年の写真集ベスト3をご紹介します。

コラージュを手掛けてきた西野壮平の幸福なスナップショット

『Water Line. A Story of the Po River』(Damiani)

 

西野壮平はさまざまな都市の風景を撮影した写真をフォトコラージュの手法でつなぎ合わせ、巨大な画面の架空の都市空間を構築するという手法で作品を作り続けてきた。今回、彼は工業、技術、社会活動などをテーマにしたアート作品制作を支援するイタリアのMAST財団の依頼を受けて、アルプス山脈を源流としてアドリア海に注ぐイタリア一の大河、ポー川の流域を撮影した。

ただ、それらの写真をまとめた写真集『Water Line. A Story of the Po River』は、これまでの西野の仕事とはやや趣が違う。

コラージュ作品は巻末に掲載されているのだが、中心になっているのは、今までなら

素材として使っていたスナップショット群なのだ。
それらの写真のたたずまいがすごくいい。シークエンス(連続写真)が効果的に使われ、のびやかな雰囲気の人物・風景写真には幸福な気分が溢れている。

紋切り型を回避した、新しい家族写真

川崎祐『光景』赤々舎

 

川崎祐は、滋賀県に住む家族(父、母、姉)の日常を撮影した「Scenes」で、2017年に第17回写真「1_WALL」展のグランプリを受賞した。2018年にガーディアン・ガーデンで開催した同名の個展で、木村伊兵衛写真賞の最終候補にも選出されている。その後も撮り続けた写真を含めてまとめたのが、本書『光景』である。

家族の写真を発表する写真家は多いが、実はかなりむずかしいテーマなのではないかと思う。距離の近い被写体に対して、主観性と客観性の微妙なバランスをとらなければならないからだ。

川崎はぎりぎりのところで紋切り型になりそうな解釈を回避し、彼らの生の輪郭をじわじわと浮かび上がらせていく。

彼が家族に対して抱いている、違和感とシンパシーとが混じり合った感情は、多くの人たちもまた抱え込んでいるのではないだろうか。新たな角度からの「写真による家族論」の可能性を感じる。

人間観察力がより凄みを増した、30年以上の集大成

鬼海弘雄『PERSONA最終章 2005-2018』筑摩書房

 

鬼海弘雄はデビュー写真集の『王たちの肖像』(矢立出版、1987年)以来、浅草・浅草寺の境内でポートレートを撮影してきた。6×6判のカメラで被写体となる人物に正対し、彼らの外貌だけでなくその存在を丸ごと定着するようなポートレートの撮影は、その後も30年以上にわたって続けられ、厚みを増していった。


『PERSONA』(草思社、2003年)、『東京ポートレイト』(クレヴィス、2011年)など、写真集も何冊か刊行されている。その「浅草のポートレート」のシリーズが、ついに「最終章」を迎えることになった。体調などの理由で、これ以上続けるのがむずかしいと判断したということのようだ。本書をひもとくと、鬼海の人間観察力がより凄みを増し、被写体の視線を受け止め、投げ返す強度も上がっているように感じる。
一人の写真家によるポートレート撮影のプロジェクトとして、アウグスト・ザンダーの『20世紀の人間たち』に匹敵する作品といえるだろう。

飯沢耕太郎が選ぶ「時代に残る写真集」Vol.25
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