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飯沢耕太郎が選ぶ「時代に残る写真集」Vol.9 星野道夫『アラスカ 極北・生命の地図』

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IZU PHOTO MUSEUM『没後20年 特別展 星野道夫の旅』展
2018年7月14日(土)~9月30日(日)
休館日:毎週水曜日(祝日の場合は翌日休)、年末年始
※2018年8月15日(水)は開館
料金:大人800円(700円)/ 高・大学生400円(300円)/ 小・中学生 無料
※()内は、20名以上の団体料金
■オープニングトーク
星野直子(星野道夫事務所代表)× 松家仁之(小説家・編集者)
日時:2018年7月14日(土) 15:00 – 16:30
会場:クレマチスの丘ホール
料金:当日有効の入館券のみ必要です。
参加方法:お電話にてお申込ください。
TEL:055-989-8780(水曜休)
詳細はWebサイトにて

1952年、千葉県市川市に生まれた星野道夫は、1976年に慶応義塾大学卒業後、田中光常のアシスタントを経て78年にアラスカに渡った。

アラスカ大学野生動物管理学部で学びながら、動物写真家としての活動を開始し、極北の大地に棲むグリズリー、カリブー、ムース、ホッキョクグマなどの生態をいきいきと捉えた写真で、日本の自然写真に新たな地平を切り拓いた。


(写真左)1頭のカリブーが雪解けのツンドラをさまよっていた。群れからはぐれてしまったのだろうか。それとも出産が近いのだろうか。川から立ち昇る朝霧と、山の斜面の残雪が不可思議な風景をつくりだしていた。僕は祈るような気持ちでシャッターを切った。(写真集より)

(写真左)母グマの背中に乗るのが好きな子グマだった。時々、母グマがブルッと背を振ると、子グマはそのまま転げ落ちる。それでも子グマはめげずに、再び背中をはいあがっていく。グリズリーの近くにいるという緊張感がフッと消えてしまうような、のどかな光景だった。(写真集より)

星野道夫は1989年1月から、『週刊朝日』に写真と文章による「Alaska 風のような物語」を1年間連載する。

スケールの大きなアラスカの大自然とそこに生きる動物、人間たちをみずみずしいカメラワークで描写した連載は、この新進動物写真家の知名度を一気に上げ、1990年の第15回木村伊兵衛写真賞の受賞に結びついた。

本書、『アラスカ 極北・生命の地図』は、同賞の受賞を受けて、代表作を中心に再編集された写真集である。

なお1991年にはもう1冊、文章をより多めに再録した写真集『Alaska 風のような物語』(小学館)も刊行されている。

26.3×37㎝という大判、横長の写真集のページをめくると、アラスカの四季をダイナミックに捉えた写真群が、あたかもパノラマのように目の前に展開していく。

星野の動物写真の特徴は、クローズアップの迫力のある写真より、むしろやや引き気味のカットにあらわれているように思う。

動物たちを取り巻く、厳しいけれども豊かな自然環境、そこに流れる悠久の時間が、まさに「生命の地図」として克明に描き出されているのだ。

カリブーやムースの群れを追って移動しつつ撮影された写真群は、星野のようにアラスカに長期滞在しなければ撮影不可能なものだったといえるだろう。

(写真右)アラスカの夏を彩るヤナギラン。この花が姿を消すと、短い極北の夏も終わる。(写真集より)

星野は木村伊兵衛写真賞受賞以後も、コンスタントに作品を発表し続け、国際的にも広く名前が知られるようになる。

『アークティック・オデッセイ 遥かなる極北の記憶』(新潮社、1994年)のような写真集だけでなく、『イニュイック[生命]』(新潮社、1993年)、『旅をする木』(文藝春秋、1995年)のようなエッセイ集も精力的に上梓し、詩的な香気溢れる文章も高い評価を受けた。

だが、アラスカとシベリアの原住民のワタリガラスの神話を背景に、人類学の領域にも視野を広げた意欲作「森と氷河と鯨 ワタリガラスの伝説を求めて」を『家庭画報』に連載中だった1996年、ロシア・カムチャッカ半島で取材中にヒグマに襲われて死去する。

未知の可能性に挑み続けた星野の写真家としての軌跡も、そこで中断してしまった。

飯沢耕太郎が選ぶ「時代に残る写真集」Vol.9
星野道夫『アラスカ 極北・生命の地図』朝日新聞社、1990年

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