【岩根愛インタビュー】がむしゃらに走り続けた12年間の軌跡―今ここにいることの意味―


テキスト=伊藤浩子
本記事は、写真評論家のタカザワケンジさんによる文章講座「写真展・写真集の感想をSNSで書くための文章講座(第二弾)」で優秀作品に選ばれたインタビュー記事です(インタビューは2019年5月24日に講座内で実施)。筆者プロフィールはこちら
文章講座は2019年10月27日より第3弾を開催。現在参加者募集中:詳細はこちら

「いつも出会い頭なんです。撮りたいものを探しているんじゃなくて、出会ってしまうと言ったらいいかな」
「テンションの保ち方なんて考えたことがない、目の前に現れるものを次々となぎ倒していったら、12年経っていたような。飽きることなんてなかったです」

写真家、岩根愛。12年という年月をかけて撮影した写真集『KIPUKA』は第44回木村伊兵衛写真賞を受賞した。受賞した感想は? との問いには「賞金がうれしかったですね」。最初は軽い冗談かと思ったが、すぐにそれが本音だということがわかる。「撮影や展示にお金がかかるので切実なんです。だから賞金はとにかくありがたい」。

彼女はこの一連のプロジェクトのために借金もしていたと言うが、その言葉の裏には、何の迷いも感じられない。借金をしてでも撮りたい、表現したい、という彼女の強い意志と情熱がそのまっすぐに見つめる瞳からも伝わってくる。その情熱がどこからくるのか? 私はとても興味を持った。

――ハワイのボンダンスの魅力について教えてください。日本の盆踊りとは何が違うのでしょうか?

「まず、盛り上がり方が全然違います。若い人が率先して踊って、30曲ぐらい、みんな完璧に踊れるんです。ハワイの人たちは、先祖の供養のために踊るんですね。だから、盆踊りはすべて、お寺で開催されます。中には、死んだお母さん、おばあちゃんを思い出して、泣きながら踊っている人もいます。私はもともと音楽が好きで、音楽関係の仕事もしていたので、そのグルーブ感にも魅了されていきました」

――ハワイの盆踊りがそんなに盛り上がるのはどうしてなんでしょうか?盆踊りと言えば、小さいころは、踊ったら最後にアイスがもらえるから踊る、毎年の行事だから踊る、というような「やらされ感」の印象があります。

「ハワイの人たちは、移民ということが大きいでしょうね。ハワイに移り住んだ日系人、とりわけハワイで生まれた2世の方々は、太平洋戦争があり、大変苦労しました(※)。そういう先祖からの話を聞かされて育っているので、自分たちとは異なる文化をとても尊重していますし、自分たちが受け継いだものも、とても大事にしているというのがあるんですね」

※太平洋戦争時、日系人は敵国とみなされることになった。その偏見をなくし、アメリカへの忠誠心を示すため、多くの若者が志願し、アメリカの軍隊に入隊した。

日系人にとっては、日本もハワイもどちらも大切なものであったはずだが、戦争という厳しい状況の中で、葛藤し、悩んで生きた過去がある。そうやって苦労した先祖がいるからこそ、自分がいる、その思いが、アイデンティティとなって、盆踊りにも表れているのだろう。お盆で帰ってきた先祖の魂と一緒になって、盆踊りを踊る。今、ここに自分がいることへの不思議な感動と喜び、先祖への感謝や思いが一体となって、熱い渦のような熱気へと昇華していくのではないか。そんな情熱的な盆踊りを私も一度見てみたいと思った。

12年という年月の中で、岩根の取組みは、盆踊りだけでなく、様々なプロジェクトに及んだ。日系人のお墓探しに始まり、サーカットという360度撮影できるカメラでの撮影(この取組みはカメラを探し、修理することから始まっている)、フクシマオンドをめぐる旅や交流、サトウキビ畑へのプロジェクション投影など、あげればキリがない。ハワイと福島を行ったり来たりして、12年。迷ったりわからなくなったりすることはなかったのだろうか?

「いろんなことに手を出しすぎなんだよ、って言われて、ある人と喧嘩したこともあるんですね。でも、私の中では、全部つながっているっていう確信があったんです。それは『KIPUKA』っていう言葉に出会ったからだと思うんですね」

「KIPUKA」―溶岩流から奇跡的に残った小さな植物のオアシスのことであり、そこからまた命がつながっていく、再生、新しい命のはじまり、を意味する。火山の噴火を繰り返し、厳しい自然環境の中で命をつないできたハワイならではの言葉なのだろう。一つの命が消えても、その生き残りが命をつないでいく。いわば、地球全体のリレーとも言える。そして、ここに命を受けたものはみな、微力ながらもその走者なのである。

ハワイでお墓に出会って、盆踊りに出会って12年。今、岩根は、何を感じているのか、聞いてみた。

「自分の後ろに過去があって、自分の前に未来があるっていうこと、一見、つながっていないと思うようなところに脈々とつながっているものがあるっていうことを強く感じるようになりました。自分には子どももいないし、これまでは、そんなことを考えたこともなかったんです」

他人からは遠回りに思えるような岩根の12年間の一つひとつの出会いや取組みは、すべてが必要なものだったのだろうと思う。過去から受け継いだバトンを次の世代に受け継ぐために。そしてその出会いや発見こそが彼女の活動の糧であり、情熱の源泉であるように思えた。

次に彼女はどんなバトンを受け継いで、どこにつないでいくのだろうか?


岩根愛

東京都出身。1991年単身渡米、ペトロリアハイスクールに留学。オフグリッド、自給自足の暮らしの中で学ぶ。帰国後、アシスタントを経て1996年に独立。2006年以降、ハワイにおける日系文化に注視し、2013年より福島県三春町にも拠点を構え、移民を通じたハワイと福島の関連をテーマに制作を続ける。2018年、初の作品集『KIPUKA』(青幻舎)を上梓、第44回木村伊兵衛写真賞受賞。www.mojowork.com

伊藤浩子

宮城県出身。大学卒業後は、都内のIT関連企業に勤務している。2006年、中古のデジタル一眼レフカメラを手に入れ本格的に写真を撮り始め、2010年にPHaT PHOTO写真教室に入ったことがきっかけで、写真に幅広く関わるようになる。現在は登山と写真をライフワークとして創作活動をする一方、講師として初心者にカメラの使い方や楽しみ方を教える活動もしている。

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