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インタビュー

つながりの軌跡 写真家・公文健太郎インタビュー|大和田伸

インタビュー


本記事は、写真評論家のタカザワケンジさんによる「写真好きのための文章講座 中級コース」で優秀作品に選ばれた写真家・公文健太郎さんのインタビュー記事です。


Text: 大和田伸

 写真家・公文健太郎(1981年生)さんに、インタビュー(2023年4月21日実施)をさせて頂きました。インタビューはWebミーティングの形式で行い、複数人のインタビュアーが公文さんとの一対一の会話を順に進めました。インタビュアー各人の視点から問いかけの一つひとつに誠実に向かい合ってご自身の考えをお話していただきました。約1時間の短い間でしたが公文さんの人柄に触れることで、公文さんの写真活動の素地にある、公文さんご自身が意識してあるいは無意識に軸としているものを垣間見ることができました。


 今回のインタビューを通じて「写真を良い感じに撮られて嫌な気持になる人はいない」という公文の言葉が最も印象に残った。単なる“写真を撮る人と写真に写る人の関係”だけにとどまらせたくないという公文の一貫した心根が感じられたからだ。

 公文の写真の特徴は、写真活動の早い時期の著作物『ゴマの洋品店』(2010年)に既に見出すことができる。1999年に植林活動でネパールを訪れて以来、約10年間にわたる現地での経験や見聞をフォトエッセイとしてまとめたものだ。そこには、タイトルにあるゴマという女性の故郷での暮らしから始まり、洋品店を営む男性の住む街に嫁いで、やがて子供を授かり育てていくまでの時間の流れがある。

著書『ゴマの洋品店』(偕成社)より

 泥道がアスファルト舗装にかわり古いバスが新品に置き換わっていくネパールの経済発展、政権交代や女性の地位が低いことなどの社会的なできごとを一人の外国人として客観的にエッセイの中で言葉にしている。しかし、写真として載せている風景には、そのような非日常の特異な光景はなく、人が生きていく中で当たり前に出会う日常の風景でまとめられている。写真に写る人に公文の向き合う姿勢は、あくまでも“あなたと私の二人称の関係”が軸となっている。そして、会話を通じて風景を見つけ記憶(撮影)しているのだろう。

 公文は、「風景の中に自分も入っていってその空間を体感することがまず先にあり、その後に、写真を撮るために少し引いた画角を探すと見えてくるものがある。その距離感を大事にしたい」とも述べている。「人も風景の一部で、自然と人間が互いに影響し合って景色が成り立っている。写真の撮影のために風景を切り取るという意識はない」とも述べる公文は、 “切り取る”という言葉を否定的にイメージする。この発言からも写真撮影のときに、写る人との関係づくりを公文が強く意識していることをうかがい知ることができる。

 インタビューでは直近の作家活動(写真集『耕す人』(2016年)、『暦川』(2019年)、『光の地形』(2020年))についても伺った。食べることは人が生きる上で欠かせないとし、農漁村の風景に入りこみ撮影を行うことで、「一つひとつの点でしかない光景をつなげていくことで、その地の人の生業が見えてくる」という。写真集は、公文がつなげた光景の軌跡で成り立っているのである。

写真集『耕す人』(平凡社)より

写真集『暦川』(平凡社)より

写真集『光の地形』(平凡社)より

 もともと公文は、ネパール、ブラジルやアフリカなど海外の遠くの土地に赴くことで何か知らないものを発見したいという意識を持っていたという。しかし、2011年の大震災の被災地に足を運んだ際に「破壊されつくした光景からは、その土地の人の営みを想像することすらできない」と感じ、日常の風景に当たり前に出会うことが写真撮影の新たな取組みとなったと語る。

 一つの空間に留まることで“人とのつながり“に一貫した意識を向ける姿勢について、公文自身が自覚していることについても伺うことができた。

 公文は学生時代に写真に興味をもつようになった。その際、学校の卒業生にあたる写真家・本橋成一を紹介され、師事した。出版社や編集者など様々なかかわりによって成り立つ本橋の写真活動を目にしていた経験から、自身の写真活動にも編集という場面では自分以外の視点を受け入れることに抵抗がない。写真集に掲載する写真の選別を、編集者やアートディレクターに委ねることも多くあるという。公文がつなげた光景の軌跡は、実は、写真活動に携わる人たちのつながりによって成り立っていた。

 公文は最近、写真集『Nemurushima:The Sleeping Island』(2022年)の編集を海外編集者に依頼することで、写真活動のつながりの距離感を探る取り組みを試みた。

写真集『Nemurushima:The Sleeping Island』(KEHRER)

 海外の編集者と写真を通じてどうやってその距離を定めていくのか、何か知らないものを発見したいという意識はここでも発揮されている。


プロフィール

写真家
公文健太郎(くもんけんたろう)/1981年生まれ。ルポルタージュ、ポートレイトを中心に雑誌、書籍、広告で幅広く活動。国内外で「人の営みがつくる風景」をテーマに作品を制作している。日本全国の農風景を撮影した『耕す人』、東北の北上川を源流から河口まで辿った『暦川』、日本の8つの半島を写した『光の地形』などを写真集や写真展で発表。2022年には瀬戸内海の離島、手島(香川県)を撮影した写真集『Nemurushima:The Sleeping Island』を発表し、写真展も開催した。その他作品多数。2012年『ゴマの洋品店』で日本写真協会新人賞を受賞。http://www.k-kumon.net/

執筆者
大和田伸(おおわだしん)/神奈川県出身。ユーラシア大陸の長旅をきっかけに、自然のしくみと地域の生活文化に興味をもち、地理学を専攻。旅日記の延長として始めた写真の撮影体験を、学際的な視点からみつめることで、写真・映像作家の個性的な活動に興味を抱く。現在は銀塩パノラマ写真に取り組む傍らで、デジタル動画の作品つくりを行っている。


同企画で優秀作品に選ばれた写真家のインタビュー記事

藤岡亜弥 テキスト=飯田夏生実 
赤鹿麻耶 テキスト=chihiro.K 
原美樹子 テキスト=江間柚貴子 
岩根愛  テキスト=伊藤浩子
インベカヲリ★ テキスト=万里(Madeno)
山谷佑介 テキスト=𠮷田多麻希


STORY TELLER / 写真家達の物語 vol.37

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